デフォルメされていますけれども、明らかにアフリカ大陸と分かる輪郭の中にフェラの写真が4枚。ジャケット大賞はとても差し上げられない作品です。当時、大変な混乱の渦中にあったフェラですから、そこまで気を配っている余裕はなかったのでしょう。

 それにしても、写真のフェラは生気がありません。まるで蝋人形館に飾られているフェラ像のようです。どれも心ここにあらずな感じを受けます。唯一笑っている右下の写真はピンぼけです。当時のフェラの心象風景を写していると解釈しましょう。

 この作品は1976年に発売されたアルバムです。恒例に従って、A面とB面に一曲ずつの構成です。ほっとします。A面がアルバム・タイトルになった「アンネセサリー・ベギング」でB面が「ノー・ブレディ」、後者は「ノー・ブレッド」すなわち「パンがない」という意味です。

 「アンネセサリー・ベギング」では、ラゴスを覆っている政治家と資本家、それを結び付けているいかがわしい連中を批判しています。ゲットーの生活は、より正直で寛容で文明的であるべきだとの主張です。

 いつものフェラです。生涯かけて貫き通した主張は見事に一貫しています。当局との戦いの真っただ中にあって、このような歌をしっかりと歌い上げるところが凄い。実際、彼の歌は当局を怒らせ、彼は大変な目にあっています。それでもぶれない。天晴です。

 サウンドは、かなりダークな雰囲気があります。ねっとりと粘りつくアフロ・ビートですが、よりブードゥーな感じで、粘り気がいつにまして強い。同じフレーズを繰り返すテナー・ギターがアルバムの通奏低音となり、ホーン陣を支えています。いい曲です。

 2曲目は「ノー・ブレディ」です。ピジン英語を使ったタイトルで、その歌詞は、A面でのフェラの主張を実現すべく、学生や労働者に立ち上がることを求めています。フェラ自身は何度も立ち上がっていますから、こういう主張にも説得力があります。

 フェラは「人民運動」なる政党と、その派生団体である「ヤング・アフリカン・パイオニアーズ」という若者組織を立ち上げています。そこでは、これらの歌で表現された内容が中心哲学となっていきました。

 いよいよ本格的な政治活動になってきました。彼の政治活動の頂点は大統領選挙への挑戦です。当局によって阻まれることになるわけですが、決して軽い気持ちでの挑戦ではないことはフェラのことを少しでも知る人には明白なことです。

 「ノー・ブレディ」もタイトル曲と雰囲気の似た曲ですけれども、ビートがよりランニングに近い。全体に追い立てるサウンドです。行動しろとアジっているわけですから、これも当然。みんなで一緒に走っている感じがいいです。

 政治と音楽は相性が良いのか悪いのかよく分かりませんが、私は音楽のクオリティーさえ高いならば、両者が結びついていても一向にかまわないと思います。音楽に妥協しないフェラは政治にも妥協せず、その強靭な主張は音楽の大きな背骨となっています。

Unnecessary Begging / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1976 Soundwork Shop)