変形ジャケットとしては半ば定番の8角形ジャケットです。ストーンズのこの手の作品では、例のストーンズ・レコードのベロ・マークを象ったレコードを持っていたことがあります。商魂たくましいストーンズらしく、なかなか素敵な出来でした。

 明らかに初期ストーンズの音楽面でのリーダーだったブライアン・ジョーンズは、1969年6月8日にバンドを脱退することが発表されました。そして、7月3日には事故で亡くなってしまいました。翌々日の5日にはハイド・パークで追悼コンサートが行われています。

 同年9月に発表された2枚目のベスト盤である本作品はブライアンの追悼盤の意味合いが濃いです。ジャケットの内側にはブライアンへの追悼文が書かれています。何とも素早い対応だと言わざるを得ません。

 お断りしておきますが、これは米国盤です。ようやく英米で同じ曲目になったのもつかの間、またまた選曲が異なっています。これはひとえに最初の米国ベスト盤に、彼らの代表曲「黒くぬれ」と「マザー・イン・ザ・シャドー」を入れてなかったからでしょう。

 英国盤にあって米国盤になかったこの2曲はストーンズのベストを編むのなら必須ですから、やむを得ずこちらに入れたのでしょう。ただ、「黒くぬれ」ではブライアンのシタールが大活躍していますから、結果的にブライアン追悼の意味が増しています。

 ただし、英国盤にあってこちらにない曲には、「シッティング・オン・ユア・フェンス」などの珍しい曲や、ブライアンの声が聴かれる「ユー・ベター・ムーヴ・オン」などがあります。マニアックな選曲が施されていて、ブライアン追悼の意向が強く伝わってきます。

 米国盤収録曲だけでも、ブライアンの操る楽器は、12弦ギター、シタール、タンブーラ、フルート、リコーダー、ハープシコード、オーボエ、メロトロンなど数多いです。初期ストーンズの多彩なサウンドにブライアンの果たした役割は極めて大きなものがあります。

 彼はこの頃出始めた電子楽器にも興味津々だったようで、あまり関心を示さなかった他のメンバーとの間の溝はますます広がった模様です。もはや彼はストーンズの器には収まらないことになっていました。早逝していなければロック界はより豊かになっていたでしょうに。

 「ホンキー・トンク・ウーマン」一曲だけは、ブライアン後、ミック・テイラー加入後のトラックです。こちらはむしろ70年代ストーンズに属するサウンドになっていて、このアルバムの中では明らかに異質です。これもブライアンの貢献を際立たせています。

 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を始め、粒ぞろいの楽曲がそろっているものの、「サタニック・マジェスティーズ」や「ベガーズ・バンケット」というザ・アルバムからの曲が含まれている点は不満です。そっちはアルバムの中で聴く方が数倍いいです。

 やはり、急ごしらえのベスト盤です。そんなに焦って発売することなかったのにと残念に思います。ストーンズの60年代はいまだに迷走が続いています。転がり続けるストーンズですから、過去に思いを馳せる気がないのだとしたら、それはそれで嬉しいですが。

Through The Past Darkly (Big Hits Vol.2) / The Rolling Stones (1969 London)