ジャケットはフェデリコ・ペペというアーティストによるインスタレーションで、「皆さん、私は後ろ向きに走れます」と題されています。使い古されたスニーカーにはナイキのマークがさかさまに取り付けられています。デュシャンを思わせる素敵なデザインです。

 恐らくはアルバニア・ホテルのコンセプトの表現でしょう。ズィーナの主宰者チェーザレ・デッランナは、1996年にイタリアのサレント半島の田舎に作ったアート活動の本拠地です。ミュージシャンのみならず、美術系のアーティストも集まったコミューンのようなものです。

 バロック時代に繁栄したというイタリア南部の地に突如アートの拠点が出現したわけですから痛快です。ワールド・ミュージックの功績は音楽には辺境はないことを示したことにあります。どこも音楽の中心地となりうるんです。

 アルバニアは長く世界の辺境でした。中国よりも正統派な共産主義国で、長らく秘密のベールに覆われていました。しかし、実際にアルバニアの人に会ってみると、そこはイタリアとほど近い国、国民は共産主義とは無縁に見えるラテンな人々でした。

 しかし、女性も含めて国民皆兵だったために、90年代終わりに騒乱になった際、市街戦では女だと思って気を抜くわけにはいかなかったという逸話が印象深いです。そういえばラテンの女性は強いですもんね。

 そのアルバニアはサレント半島の対岸にあります。このズィーナとどう関係するのかは分かりませんが、その音楽にはバルカンの匂いが濃いですから、メンバーにアルバニア系がいるのかもしれません。

 ただし、アーティスティック・プロデューサーとして名を連ねているアーメドとバシールはアルジェリア人のようです。アラブ音楽やモロッコの伝統音楽グナワで使われる楽器を中心に演奏しており、それがこのアルバムの大きな特徴になっています。

 地元のレゲエ・バンドのメンバーもいるようですし、フェラ・クティに捧げたと思われる「フェラ」なる曲もやっていて、そちらはアフロ・ビートの影響が色濃いです。ここまでだけでもいろんな音楽のミクスチャーであることが分かるというものです。

 「グナワ+アフロ・ビート+ジプシー・ブラス」と宣伝されていますが、さらにレゲエ、テクノ、ヒップホップ、ファンク、ジャズ、ロック何でもありのミクスチャー音楽です。地中海はいろんな国、いろんな民族に囲まれているというシンプルな事実を再確認させてくれます。

 バンド・メンバーとしてクレジットされているだけで12人。さらにゲストで楽器の名前が書いてある人だけで10人。総勢22人で元気いっぱいに奏でられるサウンドは「こんなスリリングでエキサイティングなサウンド聞いたことナイ」と興奮するのも分かります。

 独特のリズムと熱っぽいブラス・セクションが絡みあう重いサウンドは聴き応え十分です。何のこだわりもなさそうな自由奔放さが魅力です。砂漠なのか森なのか海なのか都市なのか、その背景もミックスする素晴らしい音楽です。

Zina / Zina (2007 11-8 Records)