エンジェルはキッスの弟分として同じカサブランカ・レーベルからデビューしました。キッスとは対照的な純白のゴージャスなアイドル衣装に身を包んで颯爽とデビューしましたから、日本でも米国のクイーンとして注目を集めました。

 そしてフランク・ザッパのファンには、当時ザッパ・バンドでドラムを叩いていたテリー・ボジオが恋に落ちてしまったことで記憶に焼き付いています。お相手はエンジェルのギタリスト、プードル・ヘアーのパンキー・メドウスです。「パンキーズ・ウィップ」は名曲でした。

 パンキーよりも目立っていたのがキーボードのグレッグ・ジェフリアでした。当時のゴージャスは今ではお笑いのネタにしかならないことが多いですが、メッシュ入りの長髪をなびかせた彼のいでたちは時代を越えてかっこよいと思います。

 「限りなき美学を追及する若きロック・アイドル、エンジェル!!」とレコード会社のプロモーションにもかなり力が入っていました。「激動のアメリカン・ロック界に挑戦状をたたきつけた若き貴公子たちのエネルギーは今、ここに爆発する。」

 これだけ力が入っていたので、近畿放送の「ポップス・イン・ピクチャー」で何回もオンエアされました。それで余計に覚えています。エンターテインメント性が豊かで、カメラが向けられると目が笑っている、それがアメリカだというMCデデ君の言葉が焼き付いています。

 この作品はそのエンジェルのデビュー作です。チャート的には200位にかろうじて入った程度ですけれども、その順位が意外に思えるほど、ここ日本では大きなインパクトがあったように記憶しています。私だけかもしれませんが。

 プロデュースは、第一期ディープ・パープルを手掛けたデレク・ローレンスと、トム・ジョーンズのブレーンとして有名なビッグ・ジム・サリヴァンのイギリス人コンビです。ブリティッシュ・アート・ロックとエンターテインメントの融合が狙いだったのでしょう。

 エンジェルのサウンドは、アメリカンでありながら、ブリティッシュ・ロックの色が濃いハード・ロックです。メロトロンやシンセが活躍し、静と動の対比を利かせたサウンドはプログレ的でもあります。プログレ・ハード、メロディアス・ハードなどと呼ばれるサウンドです。

 フランク・ディミノのハイ・トーン・ボイスと、パンキーのごつごつしたギター、グレッグのクラシカルなキーボードがバンドの顔です。そのややミスマッチな持ち味がなかなか味わい深い。面白いサウンドでした。特異な個性と言ってよいでしょう。

 リズム・セクションをさほど前に出さず、全体に奥行きがあまり感じられないサウンド・メイキングなところが残念ですけれども、彼らの熱気は十分に伝わってきます。こういうバンドはデビュー作が一番です。

 最後のインスト曲「エンジェルのテーマ」はオジー・オズボーンの「ミスター・クロウリー」の元ネタになったそうです。そのエピソードがエンジェルのサウンドを物語ってもいます。一歩間違えば、オジーの系列にも連なりうる作風です。

Angel / Angel (1975 Casablanca)