エイドリアン・シャーウッドのオンUサウンドは、パンク/ニュー・ウェイブ期に登場して、その徹底したダブ・サウンドで一際異彩を放ったレーベルでした。レーベル参加アーティストがまるで一家のような点でもユニークです。

 かつてのモータウンなどのソウル系のレーベルのように、同じミュージシャンが異なる歌手のバッキングを務めるという形ではなくて、参加ミュージシャンの全員が時にはメイン・アクトにもなるし、時にはサポートに徹する自由な形です。

 さらに、このアルバムなどは、基本的にはMCのゲーリー・クレイルが、別プロジェクトに収録されたインスト曲をバックにボーカルをのせるなど、曲の使いまわしまで行われています。本当に自由度が高い。今では珍しくもないですが、このレーベルが嚆矢でした。

 ゲーリー・クレイルは、ジャケットの右上に写真が掲載されている人です。顔に包帯を巻いてミイラ男のようになっていますが、これはけがをしているということではありません。ファッションです。日本の我々には少年漫画でなじみ深い光景です。

 彼の真価は、「過激な政治的メッセージをアジテートするヴォーカル」にあります。世の中のあらゆる問題に疑問を投げかける社会派です。ジャケ写は、皆が耳を塞いでいる光景ですが、何だったか思い出せそうで思い出せません。でも政治的であることは間違いありません。

 英国のブリストルでアイルランド人の両親の元に生まれたゲーリーは、レゲエのパーティーに参加するようになると、自らも歌い始めます。それを気に入ったザ・ポップ・グループのマーク・スチュワートによってオンUサウンドに仲間入りしました。

 最初のアルバムは同レーベルのタックヘッドとの共同名義でした。2作目となる今作はオンUサウンド・システムとの共同クレジットですが、これはレーベル所属ミュージシャン全体を指す言葉ですから、実質ソロといえますし、ソロ第一弾と言われることが多いです。

 最初に申し上げた家族主義がこのような形で表れているわけです。実際、収録楽曲には、オンUのバーミー・アーミーやダブ・シンジケートの既発曲にボーカルを乗っけた曲が入っていますし、ビム・シャーマンなどのレーベル所属の大物も参加しています。

 サウンドは、オンUサウンドらしい、レゲエ、ダブ、ファンク、ハウスなどがミックスされたクールな展開で、ゆったりとしたビートには酔わされます。音自体も冷え冷えとした音になっており、ゲーリーの熱いボーカルが映えています。

 ゲストとして、PiLのキース・レヴィンとジャー・ウォブルが少しだけ参加しています。「メタル・ボックス」期のPiLサウンドとの親和性は極めて高いですから、見事に違和感がありません。PiLのルーツの一つは確実にレゲエですし。

 私はこの頃のオンUサウンドならいつまででも聴いていられます。クールでハードコアなサウンドをただひたすら愛でていられるだけで満足です。後にヒットを飛ばすゲーリーですけれども、ここはオンU一家のアルバムとして楽しむのが正解でしょう。

End of the Century Party / Gary Clail & On U Sound System (1989 On U Sound)