ワムはちょうど漫才ブームに乗って登場しました。しかも、当時の漫才ブームでは頭抜けた才能を持つ片割れを持った普通の相方にも光があたりました。いわゆる「うなづきトリオ」です。ワムは典型的にその図式に乗っていました。

 そんなわけで、1981年に二人組デュオとして活動を開始したワムは、まるで漫才コンビのような妙な存在感も発揮しました。ワムは、後にスーパースターとなるジョージ・マイケルと、洋楽界のうなづきトリオ、アンドリュー・リッジリーの二人組です。

 二人の役割分担はとても分かりにくいです。音楽面はジョージが担っていることは明らかです。ではアンドリューはというと、ステージ構成やビジュアル面を受け持ったと言われています。本当でしょうか。あまりそんな感じもしませんが。

 ともかく、これは彼らのデビュー・アルバムです。イギリス史上4組目と言われるデビュー・アルバム初登場1位を記録しました。アルバム・デビュー前から人気が爆発していたことが分かります。先行する2曲のシングルにて火がついた模様です。

 その二曲は、「ワム・ラップ!」と「ヤング・ガンズ」です。かなり意外な顔ぶれです。日本ではこのアルバムといえば、「バッド・ボーイズ」と「クラブ・トロピカーナ」が圧倒的に代表曲です。アルバム発売後にはこれらの曲が大ヒットするので当然といえば当然ですが。

 当時の英国はまだポスト・パンクの時代、パンクの残り火が燃え盛っていた時期ですから、ワムのちゃらい感覚は驚きをもって受け止められました。ところが、日本ではアイドルの系譜がしっかりとしているため、すんなりとアイドルとして人気を博します。

 来日した時には、しっかり「レッツゴー・ヤング」に出演しています。何の疑問もなくアイドルでした。しかし、英米ではそうではありませんでした。本人たちにもアイドルとしての自覚はなく、ジャケットにある通り、革ジャンの不良少年を演じていました。

 アイドル大国日本ではこれもまたアイドルの一系譜なのですが、英米ではそうはいきません。このイメージ戦略は失敗だったとオール・ミュージックは分析しています。自分たちの持ち味と全く噛み合わないというのです。

 しかし、さすがにジョージ・マイケルだけのことはあって、デビュー作ではあるものの、立派な作品に仕上がっています。基本的にはディスコ・ビートに乗せて、熱く革ジャン野郎が歌い踊るというコンセプトは、彼らのかわいらしいルックスには合っていませんが、音楽はすごい。

 ここで注目は「ラヴ・マシーン」です。ミラクルズのヒット曲をオリジナルに忠実にカバーして秀逸です。ワムの二人はもともとソウル・ミュージック好きの幼馴染です。その原点をそのままに提示する若さが素敵です。まだジョージもアンドリューも20歳くらいでした。

 「クラブ・トロピカーナ」の若いバリー・マニロウ的な才能のきらめきも感じられますし、なんともかわいらしい「バッド・ボーイズ」に、間を埋めるソウル・チューンが小粋です。「ワム・ラップ!」のようなギミックに惑わされず、ソウル・マニアの若書きの作品として楽しめます。

Fantastic / Wham! (1983 Inner Vision)