このジャケットのイラストを見ると、私などは自動的にニュー・ミュージック・マガジンを思い出します。これはギルバート・ストーンというアメリカのイラストレーターの絵ですが、実にミュージック・マガジン的です。矢吹申彦さんあたりの頃です。

 ニュー・ミュージック・マガジンはニューをとって今でも健在です。もともとボブ・ディランに影響を受けて始まったようなものですから、当然、ザ・バンドも同誌の推奨アーティストでした。団塊の世代の雑誌なので、ザ・バンドにも大人臭を感じたものです。

 「カフーツ」はザ・バンドの4作目です。ディランのマネージャーであり、ベアズヴィル・レコードを立ち上げたアルバート・グロスマンの用意した、完成したばかりのベアズヴィル・スタジオで制作されました。

 アルバムは冒頭から新しい試みが全開です。「カーニバル」では、彼らが惚れ込んだ「ニューオリンズR&B界きっての才人」であるアラン・トゥーサンが手掛けたホーンが大活躍します。ここまでファンキーなザ・バンドは聴いたことがありません。

 しかし、これまでもニューオリンズ風味は随所に見られましたから、全く意外というわけではありません。ルーツ・ミュージックの旅を一つ進めたということだと解釈できます。この曲は素晴らしい出来栄えで、代表曲に数えられる名曲です。

 さらに話題はヴァン・モリソンの参加です。当時ウッドストックに住んでいたモリソンがベアズヴィル・スタジオを訪れたことからセッションが実現しました。仲良しだったというリチャード・マニュエルと「4%パントマイム」でデュエットしています。

 曲中、リチャードはモリソンに♪オー、ベルファスト・カウボーイ♪と呼びかけ、モリソンは♪オー、リチャード♪と返すという和気あいあいとした楽しい歌です。二人は酔っぱらっているのではないかと疑惑が生じるくらい楽しそうです。

 自由気ままにスタジオを使えるという理想的な環境に置かれたザ・バンドの面々はこうした佳曲を生み出しましたが、どうやらチーム・スピリットが高揚していたとは言い難い状況だったようです。「仲間うちの共同作業」を意味するアルバム・タイトルが皮肉に響きます。

 リチャード・マニュエルはアルコールに溺れて曲作りから撤退していますし、レヴォン・ヘルムは、アルバムにも参加している女性との恋に溺れて、リーダー役から撤退を始めました。元はレヴォン&ザ・ホークスでしたから、彼がリーダーだったはずなんですが。

 結局、ロビー・ロバートソンの役割がこれまで以上に高まっています。そして、彼のソング・ライティングはどんどん複雑になってきました。しかし、ザ・バンドの土臭い魅力と曲の洗練度合いがうまく噛み合ったというにはちと厳しい。

 もちろんザ・バンドのこの頃の作品が駄作というわけではなく、相変わらず素晴らしい演奏が繰り広げられていますが、ザ・バンドの歴史の中で、影が薄いアルバムであることは否めません。そんなに悪くないけどなあ、としんみり語りあいながら聴くと良いと思います。

Cahoots / The Band (1971 Capitol)