約二年半の間をあけてテデスキ・トラックス・バンドのスタジオ録音三作目が登場しました。レコード会社を移籍したこと、デレク・トラックスが正式にオールマン・ブラザーズ・バンドを離れたことが特筆すべき出来事でしょう。

 アルバムの制作にあたったバンドの面々は総勢12名の大所帯です。どんどんファミリーが広がっているように思います。サザン・ロックのアーティストにはファミリーが似合います。そもそもスーザン・テデスキとデレク・トラックスの夫婦バンドですし。

 この人たちの音楽が悪かろうはずはない。シングル・カットもされた冒頭の「エニイハウ」が鳴りだした途端に、彼らの世界が現前します。大きなうねるようなサウンドに包み込まれるともう最後まで彼らの虜になってしまいます。

 ジャケットには鷲が飛んでいる姿が描かれていますが、よく見ると左には人の手が見えており、鷲の足にはひもがついています。そうしてみると、これは戒めを解き放った鷲の姿ということになります。大鷲が世の束縛を離れて大空に舞い上がる。

 これは何を意味しているのでしょうか。デレクはバンドを続けることの困難と犠牲を口にしています。世間との折り合いも大変なんでしょう。しかし、それを越える喜びをバンドとともにあることで得ていると言っています。ジャケットはそういう意味なんでしょうか。

 「ライヴを終えるたびに、ステージでよく思うよ。バンドをやっていてこんなに楽しいことがあっただろうか」と語るデレクです。スーザンも、ライブの後の舞台裏で「あなたたちのバンドのメンバーに入れてくれて有難う」とあいさつするんだそうです。

 この挨拶は今ではバンド全員に広まっているそうです。こんなに素敵なことがあるんでしょうか。「こうして、バンドでツアーに出て、今、こうやって生きていられるなんて、と。このアルバムで伝えたかったのは、その喜びであり、感謝の気持ちなんだ」。十分伝わります。

 前作に比べると、ますます貫禄を増してきました。今作では、いつもバック・ボーカルでスーザンを支えているマイク・マティソンがリードをとる名曲「クライング・オーヴァー・ユー」もありますし、バンドはますます民主的な関係を深めてきた様子です。

 本作はフロリダの自宅にあるスワンプ・ラーガ・スタジオで制作されています。このスタジオには真空管アンプやクラシック・マイクなどのアナログ機材を集めているそうで、ますます充実してきているようです。そこでじっくりと全員で制作されたわけです。

 というわけで非の打ちどころがありません。全員参加が慫慂されていることから、曲のバラエティーが広がりました。もちろん、大きなグルーヴの懐の深いサウンドはそのままです。アメリカン・ロックの真髄を血と肉にしているバンドの色は変わりません。

 ボーナス・トラックとしてライブ録音が収められています。そのうちの1曲「キープ・オン・グローイング」はエリック・クラプトンのデレク&ドミノスの作品です。二つのバンドはダイレクトにつながっています。何十年の時を隔てても全く重なり合うところが素晴らしいです。

Let Me Get By / Tedeschi Trucks Band (2016 Fantasy)