LLクールJと言えば、今やすっかりグラミー賞の司会者としてお茶の間の人気者です。こんな恐ろしげなジャケットのアルバムを出していた人とも思えない、ちょっと弾けた好々爺然とした佇まいは、ヒップホップのメイン・ストリーム化の象徴です。

 言うまでもなくLLクールJは1984年というヒップホップ黎明期にデビューしたオールド・スクール・ラッパーでありながら、息長く活躍を続ける大御所です。このアルバムにしてからがすでに20年を越えるキャリアの賜物です。

 さすがは大御所らしく、ジェニファー・ロペスやメアリー・J・ブライジ、ニーヨといった大物ミュージシャンをフィーチャーしています。1曲を除く全曲にフィーチャー・アーティストが参加していること自体が大御所の証でしょう。人材育成にも精を出しています。

 「トッド・スミス」はLLクールJの本名ジェイムズ・トッド・スミスにちなんでいます。ちなみにLLクールJとは「レイディーズ・ラヴ・クール・ジェイムズ」の略称ですから、ここに「トッド・スミス」を付け加えればちょうど良い文章になります。

 その略称の通り、女性に人気があるのが彼の特徴です。ヒップホップにバラードを持ち込んだ点で先駆者とされている人らしいです。オールド・スクールは特にマッチョな世界でしたから彼の評判はいかほどだったのでしょうか。

 この作品は11枚目のスタジオ・アルバムです。それまでの作品に比べると、今一つ売り上げが伸びませんでした。ビルボードのチャートにも初登場6位が最高で、比較的短い期間にチャートからも消えています。

 しかし、すでにこの頃にはLLクールJは映画俳優としても成功していましたし、それくらいのことは彼の大物感に影響しませんでした。お茶の間のスーパースターがまた少しやんちゃなアルバムを出したなくらいの受け止められ方でした。

 シングル・カットされた「コントロール・マイセルフ」はジェニファー・ロペスをフィーチャーしたカッコいいトラックで、トップ10ヒットを記録しています。CDシングルはさほどヒットしなかったのに、ダウンロードが始まるとトップ10に再エントリーしたといいます。

 これはアメリカの音楽媒体の変遷においてエポックとなる出来事でしょう。歴史に残る作品と言えます。ついでにアフリカ・バンバータをサンプルしているところはさすがにベテランです。ここでのジェニファー・ロペスは何だか可愛らしいです。

 アルバム全体は何とも手堅いヒップホップ作品だと言えます。発表当時のことは忘れてしまいましたが、とても聴きやすいアルバムなので、評論家受けはあまりよろしくなかったようです。ちょうど良い刺激のヒップホップの王道をいく作品です。

 アメリカ盤のボーナス・トラックに入っているのはニーヨの「ソー・シック」のリミックスです。当時流行っていた曲です。その流れにこのアルバムを置いてみるとまあちょうど良いということでしょうか。おまけにはピッタリです。

Todd Smith / LL Cool J (2006 Def Jam)