この作品は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、ニューヨークにある、後にパンクの殿堂となるマクシス・カンサス・シティにて行ったライヴを録音したものです。1970年8月23日、ルー・リードがバンドに在籍した最後の日のライヴです。

 たまたま、家庭用のポータブル・カセット・レコーダーに録音された音源が残されていて、それが正式に発売されるに至ったということですから、このバンドの伝説度が知れます。まだ1972年のことですけれども、ヴェルヴェッツは伝説になっていたんです。

 録音していたのは、アンディ・ウォーホールの取り巻きの一人であるブリジッド・ポークという人で、彼女は当時、身の回りの出来事のすべてを録音していたのだそうです。その中にたまたまこのライヴも入っていたといいますから、全くの偶然です。

 その存在を知ったアトランティック・レコードの従業員ダニー・フィールズが上司に進言して正式発表に漕ぎつけたので、ダニーには謝辞が送られています。こういう伝説に係わることができるとはレコード会社の職員も本望でしょう。

 家庭用のカセットですから、当然音質はよくありません。それに、ところどころ、マイクを持っていたという詩人にしてミュージシャンのジム・キャロルの話声が入ったりしています。それがいや増しに臨場感を増していますけれども、雑音は雑音です。

 しかし、音質はリマスターを経る都度、向上しています。最近、将来の技術革新に期待してわざとアナログで録音したり録画することが流行っているそうです。確かにデジタルで録ってしまうと、それ以上の音質向上は見込めませんけれども、アナログなら一発逆転も可能です。

 最初に手に入れたLPレコードではルー・リードが歌っているのかダグ・ユールが歌っているのか判然としなかったものですけれども、このCDではさすがにはっきり分かります。結構、ダグ・ユールも歌っていました。

 貴重なライヴですけれども、双璧をなす「1969ライヴ」との最大の違いは、ドラマーです。この時、モーリン・タッカーは産休に入っていて、この日はダグ・ユールの弟のビル・ユールが叩いています。

 ビルのドラムはもちろん悪くはありません。しっかりしたタイトなドラミングで、普通にロックしています。しかし、モーリンの他の誰にも真似できないと思われる、緩いドラミングがヴェルヴェッツの特徴でしたから、ここでのサウンドは別のバンドのようです。

 「ローデッド」が他のアルバムと一線を画しているのと同じような意味で、このアルバムは他のアルバムと画然としている言ってよいでしょう。ただ、それがだめかというとそうではなくて、むしろルーの作る曲自体の魅力がより際立っていて、これはこれで面白いです。

 ハードな面とバラードな面がうまくバランスされていて、編集も見事です。同じ日に二回行われたライヴからの編集で、オリジナルは1枚、エクスパンデッドで2枚になりましたが、この再編集盤は2枚引く数曲で再び1枚にまとまりました。ちょうど良いです。

Live At Max's Kansas City / The Velvet Underground (1972 Cotillion)