やくしまるえつこは洋楽界でいえばビョークのような存在です。人の想像を一歩越える境地を常に歩み続け、アーティストから一目も二目もおかれているところが似ています。どちらも音楽界になくてはならない存在です。

 ソロ活動が目立つやくしまるですけれども、相対性理論として5枚目となるアルバムが約3年ぶりに発表されました。メンバーは前作と同じです。チャート・アクションはそれほどではありませんけれども、各方面から絶賛されています。さすが。

 さまざまな人がこのアルバムに言葉を寄せていますが、米国テクノの重鎮ジェフ・ミルズは「空間移動」を思い浮かべましたし、坂本教授は「宇宙的、天空的なもの」を感じ、音楽批評家の樋口泰人は「果てしなく遠い彼方の場所と時間のことを」思っています。

 ももクロの百田夏菜子は「なにこれ!!!」と「歌声に吸い込まれそうになりながら、自分にだって吸い込まれそうで、気づいたら曲と向かい合い自分と向かい合ってる」と驚いていますし、音楽評論家の湯浅学は「タイムトンネルみたいな音楽」と評しています。

 これらの言葉を並べてみると、皆さんが、どこか通常の力学的時空間とは違う時空を感じていることが分かります。さすがは相対性理論です。相対性理論の魅力はそこにあります。どうにも五感だけではとらえきれない。

 決してアヴァンギャルドな作品などではなくて、意匠自体は普通にポップな音楽なんです。しかし、何とも理解しがたいところがある。私にはアヴァンギャルドなヤクシマルエクルペリメントの方がずっと分かりやすいです。

 実はこの作品に係わるやくしまるのインタビューを読んだのですけれども、ちんぷんかんぷんでした。ポピュラー音楽は基本的には若者の文化ですから、歳をとった私に簡単に理解できるようではまだまだです。その意味ではこういう作品に出会うのは嬉しいことです。

 さて、本作品はメンバーとの共作はあるものの、全曲やくしまるえつこの作詞作曲です。やくしまるのカワイイ系なのにそうは言いきれないボーカルと、永井聖一のギターを中心にした独特にポップな演奏が全編を覆いつくしています。

 言葉は相変わらず大宇宙と日常が同居していてはっとさせられっぱなしです。いきなり♪天地創造投げ出して♪ですから。♪ミサイルが来るそうだ クリームソーダ♪と韻の踏み方も独特ですし、擬音の使い方も面白い。私の語彙にはないので楽しいです。

 インタビューはちんぷんかんぷんでしたが、サウンドには細心の注意が払われているらしいことはよく分かりました。ボーカルの録り方とか、演奏の組み立て方とか。ただし、実際に耳を傾けてみても、彼女の説明に納得できるわけではありません。難しい。

 決して小難しい音楽ではないのですが、何とも扱いかねて、結局何度も聴いてしまうはめに陥るという面白い音楽です。以前のアルバムに比べると、貫禄を増してきただけに、理解の向こう側がどんどん大きくなってきました。恐るべし。

Tensei Jingle / Soutaisei Riron (2016 Mirai)