ジャケットをしみじみと見ていますとクラフトワークを思い出しました。演奏風景を写真に収めたというよりも、カメラのためにポーズを決めている四人の姿には半ば不自然で人工的な匂いがします。一見普通の写真ながら、少し変です。

 アマデウス弦楽四重奏団は、離合集散のはなはだしいカルテットには珍しく、1948年のデビューから、ヴィオラ担当のペーター・シドロフの死によって幕を閉じる1987年まで、ただの一度もメンバー交代がありませんでした。素晴らしい話です。

 ナチス・ドイツによるオーストリア併合の影響を避けて英国に逃れていたノーバート・ブレイニン、ジークムント・ニッセル、シドロフの三人はマン島で初めて出会い、さらにイギリス人のマーティン・ロヴェットを加えて四重奏団を結成します。

 第二次大戦後にデビューすると、ドイツ仕込みの作風で人気を博し、1950年代、60年代にはかなり人気があった模様です。今でも彼らの残した演奏はスタンダードの一つとして扱われているとのことです。

 この作品はベートーヴェンの弦楽四重奏曲を2曲収録したものです。第7番が1960年、第14番が1963年の発表です。LPは別々に発表されていますが、CDでは2イン1となりました。どちらも40分弱ですから、ちょうどCDサイズです。

 第7番は、ベートーヴェンがウィーンのロシア大使だったラズモフスキー伯爵の依頼で作られた三曲のうちの一曲です。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は後期になるととっつきにくいという評判ですけれども、これはまだそれほどではないという評価です。

 ロシア大使の依頼だということで、ロシア主題といわれるロシア民謡を使った主題があるそうです。お客様のことを第一に考える職人の側面が出ています。さすがはベートーヴェンです。長い楽曲ですが、いろいろあって結構忙しい作品だと言えます。

 一方の第14番は、晩年の傑作として名高い模様です。14番なのに15番の後に作曲されたという何やら訳のわからない作品でもあります。ベートーヴェンはこの曲に随分と自信があったようで、出来上がった時には大そう喜んだそうです。

 同じ弦楽四重奏曲ながら、7番と14番ではまるで雰囲気が違います。曲の切れ目はくっきりと際立っており、続けて聴くのではなくて、間に休憩を入れた方がよいと思います。特に14番は緊張感が高いので、一旦トイレにでも行くのが良いです。

 一応、7つの楽章からなっていますが、そんな感じではなくて全部続けて演奏されており、7つの部分からなる長い1曲と考えた方がよさそうです。特に最後の2曲の盛り上がりはベートーヴェンらしくて、思わず居住まいを正してしまいました。

 14番がいいです。ベートーヴェンのストイックな面がくっきりと出ていて、もはや依頼人のことを考えるというよりも、自分の内面に深く深く潜りこんでいって、掘り起こしてきたような旋律が凄い。それをアマデウスが強弱くっきりと演奏する。ザ・スタンダードでしょう。

Beethoven : Quartette Op59 Nr.1, Op131 / Amadeus Quartett (1963 Deutsche Grammophon)