あまりの忙しさに、ついに間が空いてしまいました。気を取り直してまいります。

 あのフレッド・フリスがまさか、と駄洒落を発したことがある人も多いことでしょう。しかし、そもそも意味が大虐殺だったり、紙ジャケ再発盤に菊池成孔が寄せているライナーノーツのシリアスさを前にすると、そんな軽いノリを反省させられます。

 フレッド・フリスはヘンリー・カウが解散した後、「少しずつ閉鎖的になりがちなバンド生活を10年も続けていたおかげで、私は次に何をやればいいのかは言うにおよばず、もはや自分が誰なのかさえよくわからなくなっていた」と述懐しています。

 そんな1978年10月にニューヨークで出会ったバンドのリズム・セクションが、当時16歳のフレッド・マーと「無口で抜かりのない」ビル・ラズウェルでした。すっかり心を奪われたフリスは二人にバンド結成をもちかけました。マサカーの誕生です。

 「グラヴィティー」に参加したザムラとの出会いと、方向性は違うものの、フリスにとって、初心に帰るという意味では同じような意味をもった出会いだったのでしょう。はつらつとして迷いのない若者の演奏はさぞや魂をゆすぶったことでしょう。

 ただし、この時、フレッド・マー16歳との対比でベテラン扱いされがちですけれども、ビル・ラズウェルとて23歳、フレッド・フリスもまだ29歳でした。若者の演奏を聴いて、「どれ、わしも」というほどの歳ではありません。

 しかし、フレッド・フリスのある意味で老成した音楽を聴いていた者にとっては、こんな攻撃的な音が出てくることに驚かされました。まさか、と駄洒落につながるわけです。フレッド・フリスはギタリストであるという当たり前の事実を再確認させられました。

 編成はこれ以上ないシンプルなギター・トリオです。マーのドラム、ラズウェルのベースにフリスのギター。ほぼこの三つだけで構成されたサウンドは、普通にロックを聴いていた耳にはとても新鮮に映りました。

 BBCは「シャドウズ、キャプテン・ビーフハート、デレク・ベイリーとファンカデリックの不道徳な結合」と評しています。シャドウズがやや意外ですが、ボートラで彼らの曲をカバーしています。ファンカはどうかと思わないではないですけれども、見事な描写です。

 ゴリゴリの演奏は、菊池さん曰く「5拍子と7拍子を基盤にした、脱構築的で(エイティーズ)ポスト・モダンなロック」です。普通のロックとは異なる種類のエネルギーに満ちた、剥き出しのコンクリートのような演奏は確かに素晴らしい。

 何度かCDで再発される都度、ボートラが増えていき、もとの13曲に8曲も加わっています。オリジナルはニューヨークでのスタジオ録音、ボートラはパリその他のライヴ録音です。バンドの記録はこの作品だけなので、そこに皆が盛り込んでいくというありがたい仕様です。

 とても長続きするとは思えない編成でしたが、案の定、「1年半も存続せず、ギグもせいぜい20回位しかやらなかった」そうです。テンションが高いバンドでしたし、とても潔い話です。三者三様の道がほんの少しだけ交錯した奇跡を味わいましょう。

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