「トランシルヴァニアの古城」と言えばブラン城が有名です。このお城にはドラキュラが住んでいましたから、通称はドラキュラ城と言われています。直接的な言及は一切ありませんが、このアルバムのテーマはドラキュラではないでしょうか。

 組曲になっているタイトル曲はもとより、「孤独なものたちのための」と副題がついた「神話」、そして「めざめ」「追憶のファンタジー」、さらには「ポルタガイスト」と各楽曲のタイトルを並べると、どことなくドラキュラ伯爵っぽいです。

 リーダーの泉つとむはタイトル曲について、「いろいろな意味と目的があるのだけれどここにはあえて書かない」といいながら、「僕の作る曲の根底にはいつも悲劇が息づいている」と語っています。どんどんドラキュラに近づいてきました。

 コスモス・ファクトリーは、1960年代末に名古屋で結成された、日本のプログレッシブ・ロックの草分け的なバンドです。上京した彼らは音楽評論家の立川直樹氏の目にとまり、活動の幅を広げます。1973年5月にはハンブル・パイの日本公演の前座を務めるに至りました。

 そして同年10月に発表されたのがこの作品です。メロトロンやムーグ・シンセサイザーなどプログレの神器を多用したサウンドはまさに時代の先端を行くものでした。キング・クリムゾンやEL&Pなど洋楽にはあっても、日本にはこんなバンドはありませんでした。

 この作品はしばしば四人囃子の「一触即発」と並ぶ和製プログレッシブ・ロックの名盤中の名盤だと言われます。「一触即発」は半年以上後の作品ですから、こちらが元祖だと言ってよいでしょう。日本のプログレの祖と言えましょう。

 さらにA面5曲、B面1曲というピンク・フロイド的構成や、ドラキュラの真偽のほどはともかく、アルバム全体に漂うトータル感はプログレの王道中の王道です。四人囃子に比べてもよりプログレ、プログレしていました。

 ではどれに近いかと言えば、伸びやかなキーボードの音を中心に据えたサウンドは、EL&Pというよりも、キング・クリムゾンの初期やムーディー・ブルースを思い浮かべた方が良いと思います。ギターも活躍していますし。

 泉は自分の作曲感覚を日本的で、それは「特にメロディーの上によく表れている」と書いています。実際、特にボーカル・ラインがとても歌謡曲的というかGS的です。彼の甘い声とあいまって、ハードコアなプログレ・マニアには受けが悪いようですが、私は結構好きです。

 全体に、イギリスのプログレ・サウンドのエッセンスを抽出して、純度を高めたようなザ・プログレなサウンドになっています。そこに和の風味を練り込んでいますから、和耳にしっかり馴染む面白い作品です。

 冒頭には「サウンドトラック1984」というインスト曲があり、泉は「映画音楽が大好きだ」と書いている通り、後に彼らはにっかつロマン・ポルノのサントラを数多く手掛けます。当時のにっかつは若手の鬼才を数多く起用していました。良い時代でした。

An Old Castle Of Transylvania / Cosmos Factory (1973 日本コロンビア)