ヨーロッパ中世を感じさせる太陽です。その頃、太陽には顔があったはずです。そうしてスパイク状の光線を降り注いでいました。この作品は、そんな時代のヨーロッパを描いたような作品です。アート・ベアーズの名を一躍高めた傑作でした。

 いわば事故で誕生したアート・ベアーズでしたが、ヘンリー・カウが予定通り解散すると、本格的に活動を開始しました。前作はもともとヘンリー・カウの作品でしたから、いわば急ごしらえで、コンセプトも後付けでした。

 しかし、今作は違います。事前にコンセプトが用意され、クリス・カトラーがテキストを書いています。そのテキストに基づいて、フレッド・フリスが2週間で作曲しました。そして、その楽曲をもってダグマー・クラウゼを加えた3人でスイスのスタジオにこもりました。

 そうして出来上がったのがこの「ウィンター・ソングズ」でした。演奏は3人だけで行われ、スタジオのエンジニアだったエティエンヌ・コノの技術をかりて制作されました。短期決戦で一気呵成に仕上げられたということで、集中力は凄かったことでしょう。

 テキストは世界遺産でもあるフランスのアミアン大聖堂にあるレリーフを題材にしたもので、ブックレットにはそれぞれの写真が掲載されています。もちろん、題材にしたと言っても、描写しているわけではなく、触発された詩ということです。

 カトラーの詩人としての才能を発見したのはフレッドの功績です。カトラー自身もそんな才能があるとは思っていなかった様子です。アート・ベアーズはそのカトラーの詩を歌うことを目的に結成されたとも言えるでしょう。

 制作にあたっては、事前にリハーサルすることなく、アイデアを一つ一つレコーディングしていく手法がとられています。もともとダグマーのボーカルとクリスのドラム以外のほとんどをフレッド一人で手掛けていますから、そうならざるを得ないというのもあったのでしょう。

 録音した音と真剣勝負で次の音を重ねていくことで、事前リハーサルのみならず、ポスト・プロダクションもほとんで行われなかった模様です。わがままアーティストの求めに応じたエンジニアのエティエンヌの貢献も大きいでしょう。

 なんとクリスのドラムはあえて最後に録られたそうです。常識的にはまずリズム・トラックからだと思うのですが、そこがこのアルバムの面白い点です。歌曲集なのに、意外と耳に残るドラムのサウンドはそのような出自だったとは驚きです。

 恒例となっている最後の無音曲「沈黙」を含めて全15曲、アイデアの種類は曲数の数倍はあります。大聖堂らしく、とてもヨーロッパ的な色彩の強い小品集は、誰もが認めるアート・ベアーズの最高傑作です。

 ダグマーの現代音楽風のボーカルになかなか馴染めなかった私ですけれども、久しぶりに聴き直してみて、テンションの高い見事な演奏に感動してしまいました。人生、何度も冬を越してきて、私のテイストも変わってきたようです。

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