米国のアーティスト、クリストファー・マーク・ブレンナンの絵を見た瞬間、ゲイル・ザッパの頭にはこのタイトルが浮かんだそうです。ビロード風の紙にあしらわれた変態な絵は見事にこのアルバムを表しています。

 この作品は、「イエロー・シャーク」プロジェクトのためのリハーサル風景を収めたアルバムです。ゲイルも聴いたことはあったけれども、フランクがミックスしていたとは知らなかったそうです。それがスペンサー・クリスルの手で作品化されました。

 「イエロー・シャーク」でご紹介した通り、アンサンブル・モデルンの一行は最初は自腹でザッパの元に飛び、リハーサルを行っています。モデルンの一行はそれは熱心に練習に励んだそうで、ザッパ先生も大いに感動しています。

 そのリハーサルのドキュメンタリーがこの作品です。さすがにライブ録音から作品を編集する作業はザッパ先生のお手のものですから、作品としての完成度は普通の水準からすれば十分に高いです。完成された作品として普通に楽しめます。

 アンサンブル・モデルンはドイツのちゃんとした室内楽団です。その楽団の面々に、フランクはさまざまなことをさせています。その一つはボイス・パフォーマンスです。「イエロー・シャーク」でアメリカの入国カードを読み上げたヘルマン・クレッツマーがここでデビューしています。

 もともとピアノ弾きの彼は、ここで「図書館カード」を読まされ、それが大いにみんなの壺にはまってしまいました。結果、「マスター・リンゴ」と「ワンダフル・タトゥー」の2曲で、性器ピアス愛好家の雑誌への読者投稿を読み上げるに至っています。何と言いますか。

 その陰に隠れて目立ちませんが、アンサンブル・モデルンの日本人女性パーカッショニストのルミ・オガワさんも「ナップ・タイム」にて日本語を披露しています。少人数で演奏される瞑想的な楽曲に♪あさぼらけかな~♪とまるで謡曲のような語りがよく合います。

 また、フランクはモデルのメンバーにソロで即興をするように求めました。クラシックの人たちですので、即興はチャレンジであったことと思います。また、いくつかあらかじめ決められた音を、フランクのサインに合わせて繰り出す「指揮された即興」にも興じています。

 今回はバイオリンのシャンカールも参加していますし、何よりもフランク・ザッパのギターが聴けるところが嬉しいです。それは「ストラット・ヴィンダルー」という曲で、二人の掛け合いが見事です。即興のお手本的な意味合いがあった模様です。

 その他、モデルンが初見で弾いている曲や、ザッパのロック曲「ティマーシ・ドゥイーン」もあり、クロノス・カルテット用の弦楽曲もありと、さすがにリハーサルだけに何でもありです。しかし、どれもが質が高い。さすがはアンサンブル・モデルンです。

 なお、「アムネリカ・ゴーズ・ホーム」は難曲すぎて「イエロー・シャーク」入りは見送られましたが、モデルンの面々は負けてならじと、今では彼らのレパートリーとして見事に弾きこなしているそうです。いい話です。

EIHN-Everything Is Healing Nicely / Frank Zappa (1999 Barfko-Swill)