ついに靴下ジャケットではなくなりました。そうして、残念なことにヘンリー・カウはこの作品を残して解散してしまいました。解散自体は1978年1月のスイス録音から戻ってまもなく決定されていましたが、同時に半年間はツアーを続けることで合意していました。

 それからの半年間は、英国ジャズのマイク・ウェストブルック・ブラス・バンドと合体してオーケストラ(The Orckestra)を結成してコンサートを行ったり、ロック・イン・オポジションのイベントを開催したり、カウとしてツアーに出たりと多忙な日々を過ごしました。

 ベースのジョン・グリーヴスは「傾向賛美」後に脱退し、ジョージ・ボーンに交代しましたが、このアルバムではボーンもほんの少し参加したのみです。さらにボーカルのダグマー・クラウゼはツアーの途中、体調不良で離脱しています。

 というわけで、このアルバムは残った四人による作品になりました。そして、ヴァージン・レコードとの契約を切りたかった彼らは、逆にアルバム作りをオファーして先方に拒否させることで、契約解除を勝ち取っており、四人は自由な環境でアルバム制作に打ち込んでいます。

 そして、A面がティム・ホジキンソン、B面がリンジー・クーパーの作曲になる全編インストゥルメンタルの組曲的な作品で埋め尽くされています。ただし最後の曲だけはアート・ベアーズ・セッションの時に録音されたティムとリンジー共作の楽曲です。

 フレッド・フリスとクリス・カトラーのアート・ベアーズ組は一歩引いた形でティムとリンジー主導のアルバムを支える格好になっています。有終の美は二人に花を持たせる形とする意図があったのだろうと思われます。

 しかし、レコメンデッド・レーベルの活動やロック・イン・オポジションの組織化が緒に就いたばかりの時期にヘンリー・カウが解散してしまった事実は何やら意外な気がします。彼らはむしろそれらの事象で記憶されるバンドだからです。

 さらに、事実としては解散が決まってからそれらの活動が本格化しているわけで、ヘンリー・カウは解散したというよりも、それらの運動の中に解消したと言った方がよさそうです。後世に多大な影響を与えた所以です。

 ヘンリー・カウは、アメリカではなくて、北欧を含むヨーロッパ大陸に浸透していき、欧州に広がるフリー・ミュージックの世界に身を置いて行きました。ウェスタン・カルチャーです。その集大成がこのアルバムとも言えます。

 スラップ・ハッピーとの合体作に比べると、全曲インストゥルメンタルということもあり、フリーなチェンバー・ミュージックが正面から奏でられていて、むしろ分かりやすい。前半の「来し方行く末」とでも訳せる組曲では過去作品からの引用もあって親近感も湧きますし。

 解散を決めた悲壮感などは微塵もなく、初期カウの良さとヨーロッパでの修行の成果を存分に発揮した力作です。靴下ジャケでないからと敬遠する人もいるのかもしれませんが、それはもったいない。なかなかの傑作だと思います。

Western Culture / Henry Cow (1979 Broadcast)