靴下ジャケット第三弾です。今度は赤。同じジャケットにしてその色合いでアルバムの音楽を表していくという趣向ですから、今回の赤色はそれなりの意味があるのでしょう。これは彼らのアルバムの中で最も政治的なアルバムだと言われています。

 ヘンリー・カウとスラップ・ハッピーは合体しましたけれども、前作の後、スラップ・ハッピーのメンバーのうち、アンソニー・ムーアは脱退を希望し、ピーター・ブレグヴァドは活動期間を9か月に制限したいと言い、ダグマー・クラウゼはカウに加入したいと希望しました。

 この作品は両グループの全員が参加していますけれども、名義がヘンリー・カウ単独になっているのはそういう事情があったからです。実際、前作と異なり、ヘンリー・カウ色が色濃く出たアルバムになっています。

 とはいえ、プロデュースは共同名義ですし、作曲クレジットも両バンドを併記した曲が全5曲中2曲あります。残りはティム・ホジキンソン名義が1曲、アンソニーとピーターの共作が1曲、クリス・カトラーとフレッド・フリスの共作が1曲です。

 アンソニーとピーターの曲は前作制作時の曲だそうで、後にザ・フォールがカバーしたことでも知られる「ウォー」です。冒頭を飾るこの曲はアンソニー・ムーアの代表曲として親しまれている名曲です。

 続くホジキンソン作詞作曲の楽曲「リヴィング・イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ビースト」はとても政治的です。直截に彼らの左翼的な思想を表現した歌詞は、革命を呼び掛けているかのような口調になっています。

 これをダグマー・クラウゼがヨーロッパ的な歌唱で歌うので、歌詞を読みながら聴かないととてもそんな歌には思えないところが面白いです。短い曲ばかりだった前作とは異なり、この曲は16分近くあります。スラップ・ハッピー色はうかがえず、ヘンリー・カウの色彩が濃いです。

 なお、このアルバムからリンジー・クーパーが復帰しています。何で放り出したのか。よく分からない人たちです。彼女のオーボエとバスーンはここでも素敵な音色を聞かせてくれます。カウの音楽を特徴づけているといってもおかしくありません。

 クリス・カトラーとフレッド・フリスの共作が含まれたのも初めてのことです。二人ともヘンリー・カウのメンバーですが、これがやがてアート・ベアーズの結成につながっていく契機となったといいますから面白いです。

 ヘンリー・カウの室内楽ロックに、より室内楽的とも言えるダグマーのボーカルが加わり、その世界はますます堅牢になりました。前作のポップ寄りサウンドが嘘のようなアヴァンギャルドを素直に全開にしたアルバムです。これまたサウンドは美しく、愛おしいです。

 ところで、どうしてこういうことになったのか理解しがたいですけれども、本作品の邦題は「傾向賛美」です。明らかにラーニングをリーニングと読み間違えた結果です。人には読み間違いはあるものですけれども、誰もチェックできなかったのが不思議です。

In Praise Of Learning / Henry Cow (1975 Virgin)