ハンガリーはマジャール族の国です。と言われてもあまりピンときません。やはり日本にいると西欧諸国に比べて東欧諸国は馴染みが浅いです。鉄のカーテンに閉ざされていた国々として重苦しい空気をぬぐうことができません。

 さらに西欧諸国が東欧諸国をどのように思っているのかという応用問題になると、まるでお手上げです。同朋なのか違うのか。日本にとってのロシアのような存在ではなさそうですが、それでは韓国なのか中国なのか。

 ドイツ人ブラームスにとっては、ハンガリーは異国情緒あふれる地のようです。西洋古典音楽にとっては、東欧の音楽は大いなる刺激になったようで、ブラームスもハンガリーのジプシー音楽の大ファンだったそうです。

 「ハンガリー舞曲」は、ジプシー音楽に魅了されたブラームスが、その音楽を「採譜」して編曲した作品集です。全部で21曲ありますからかなりその熱心さが伝わってきます。ブラームスの楽曲としての作品番号はなく、オリジナルではないと謙虚な姿勢が伝わります。

 元は4手のピアノ用に編曲されたものでしたが、いろいろな人がオーケストラ用に編曲するという、現在のダンス音楽のリミックスのようなことが行われました。この作品にも7人の編曲者が名を連ねています。

 中では、3曲を手掛けているブラームス本人に加え、5曲を編曲しているドヴォルザークの名前が目を引きます。7人による編曲ではありますが、さすがに原曲はブラームス一人で編曲したピアノ曲ですから、さほど編曲者の個性が色濃く出ているようには聴こえません。

 しかし、ブラームスによるピアノ曲への編曲はかなりブラームスの色が強い模様です。何曲かは全くのオリジナルだと言われています。新しい音楽に刺激を受けて、古典音楽が新たな装いを獲得したわけで、まるでロックン・ロールのようです。

 ダンス音楽らしく、全21曲で48分強ですから、大たい2分前後の曲ばかりです。キャッチーなメロディーが耳を惹く、まるでポピュラー音楽な展開です。聴いていると結構忙しい。踊りながら聴くとちょうどよさそうです。

 中では1番や5番、6番などが特に有名です。ポピュラー・クラシックとして巷に溢れかえるクラシック音楽の中でも一二を争う知名度でしょう。憂いを帯びた調子と、軽快な曲調の対比が特徴的な耳を奪う曲ばかりです。

 この舞曲集は全曲が揃うことはあまりなく、人気曲を軽く演奏するのが定番のようです。それをイタリア生まれの指揮者クラウディオ・アバドがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とともに全曲録音したのがこの作品で、かなり定番中の定番になっている模様です。

 折り目正しいウィーン・フィルにはこうしたダンス曲は合わないという感想が多いようです。ほとんどポピュラー音楽ですから、ポール・モーリアの方がよいのかもしれませんが、結構ダンスにしようと頑張る演奏はなかなか面白いと思いました。

Brahms : Hungarian Dances / Claudio Abbado, Wiener Philharmoniker (1983 Deutsche Grammophon)