紙ジャケ再発時の帯には、「ニューヨーク・パンクを代表するバンドのトッド・ラングレン・プロデュースによるファースト・アルバム」と書かれていますけれども、ドールズが活躍した頃にはまだパンクはありませんでしたから、この惹句は強引すぎます。

 しばしばパンクの元祖と言われる彼らですけれども、リアル・タイムではもちろんそんな呼ばれ方はしていませんでした。パンクがまだなかったのですから当然です。それでは何だと思われていたのかというと、グラム・ロックです。

 Tレックスやデヴィッド・ボウイに代表される英国のグラム・ロックはまだまだ同時代でした。それに対する米国からの回答だと、少なくとも私は思っていました。そして、グラムとパンクの間にドールズを置いてみると、両者は見事につながります。

 ニューヨーク・ドールズのデビュー作はとにかくジャケットがセンセーショナルでした。どぎついメークの5人をモノクロで撮影したことが凄い。そこに口紅で書かれた文字。これは素晴らしすぎます。写真はトシ、ヘアーはシン。日本人が手掛けています。天晴!

 バンド結成は1971年に遡ります。強烈なカリスマを持つギターのジョニー・サンダースと、ボーカルのデヴィッド・ヨハンセンを中心とする5人組は、レコード契約直前にドラムのビリー・マーシャが急死するというアクシデントに見舞われながらも、デビューにこぎつけました。

 皆に怖がられた彼らはなかなかプロデューサーが見つからなかったようですが、無事にトッド・ラングレンに決まりました。エンジニアには後にエアロスミスを手掛けるジャック・ダグラスが起用されています。ちょっと意外な組み合わせです。

 ドールズのサウンドは、サンダースによるヤードバーズや初期ストーンズなどのブリティッシュ趣味と、ヨハンセンのモータウンなどブラック・ミュージック趣味がうまい具合に融合したもので、結果、もっこりしたビートのシンプルなロックン・ロールになっています。

 ロンドン・パンクの黒幕マルコム・マクラレンはニューヨークでドールズを見て、特にサンダースをイギリスに呼びたいと考えますが、結果的にそれを断念、ロンドンでドールズのようなバンドを結成することとし、できたのがセックス・ピストルズです。

 ピストルズのデビュー作もクリス・トーマスという意外なプロデューサーが起用されましたが、それもドールズのトッドに肖ったのかもしれません。この展開を考えると、ニューヨーク・ドールズの見事なまでのパンクの元祖ぶりは凄いです。

 当時から評論家受けはよかった彼らですが、商業的な成功は収められませんでした。しかし、時の経過と共にその名声は高まり、このデビュー作は今や最も影響力のあるアルバムの一つに挙げられるほどです。

 今聴き直すと、帯にパンクと書きたくなる気持ちも分かりますし、当時を知らない人は疑問を抱かなさそうです。シンプルなロックン・ロールに徹したサウンドは、トッドの手によってプロ仕様になっており、見事に時代を生き延びています。カッコいいです。

New York Dolls / New York Dolls (1973 Mercury)