今度は10年です。シャーデーの6枚目の作品が届くのに10年かかりました。そんなブランクがあるにもかかわらず全米1位デビューですから凄いものです。アルバム後のツアーも興行成績がトップ10に入る人気ぶりです。

 いろいろあったシャーデー・アデュは、イギリスのグロスターシャーの田舎で、新しいパートナーと子供たちとともに静かに暮らしています。「自身に人間として成長する時間を与えられることさえできればアーティストとしても成長できるのよ」とは彼女の言葉です。

 「自分は今よりも前に『ソルジャー・オブ・ラヴ』を作ることはできなかったし、ファンをお待たせして申し訳なかったけれども、信じられないくらいこのアルバムを誇りに思っている」と語る彼女は自信に満ちています。

 新しいパートナーはイギリス海兵隊あがりの元消防士だそうで、ごくごく普通の方です。「私はいつも樹を切ることが出来て、笑顔が素敵な男が見つかるといいのにって言ってきた。貴族だろうが悪党だろうが良い人なら構わないって。」

 「とうとう教育のある悪党と一緒になることが出来たわ。義理の息子も可愛いし、最後に良い籤を引いたって感じてる」と冗談交じりに語る彼女はかっこいいことこの上ありません。超がつくスーパースターなのに何とも素敵な人です。

 バンドは前作のツアー後、2001年から顔を合わせていなかったそうですが、突然、アデュから電話がかかり、3人はそれぞれ仕掛かりの仕事を中断して、スタジオにはせ参じました。四半世紀にわたるパートナーシップは強固なものです。

 バンド・メンバーは前と同じようにできるかどうか心配だったそうですけれども、シャーデー・アデュは自信に満ちていました。共同プロデュースのマイク・ペラを始め、サポート・ミュージシャンも馴染みの顔が揃い、バンドの結束は昔に変わらぬ様子です。10年ぶりなのに。

 サウンドはとても力強いです。10年前の作品と比べるのもなんですけれども、前作がカリブ的な雰囲気があったのに対し、今回はまるでイギリスです。同じゆったりとしたサウンドではありますが、より重いタッチです。

 マヤのピラミッドを思わせるセットを背景に背中を向けるシャーデー・アデュも51歳。声には相応の年輪を感じます。サウンドも同様にうまく歳を重ねてきました。タイトル曲の、シャーデーには珍しい力強いリズムも円熟を感じさせます。

 話題はシングルカットもされた「ベイビーファーザー」でしょう。アデュの娘さんイラ・アデュと、恐らくスチュアートの子どもだと思われるクレイ・マシューマンがボーカルで参加しています。裸のリズム・ボックスを使った軽快さとしっとりとした重さが同居しているいい曲です。

 シャーデー・サウンドは全く色褪せずに健在です。ポピュラー音楽の世界にシャーデーだけで一本太い幹をたてているのは凄いことです。しっとりと人の心に突き刺さるシャーデーの音楽世界がこうして追加されたことは大いなる喜びです。次の10年も待とうと思います。

参照:Mail Online 14/3/2012

Soldier Of Love / Sade (2010 Sony)