前作から4年。長い時間ですけれども、後のシャーデーを知る私たちとしては、たった4年でよく出してくれたと感謝しなければなりません。寡作にもほどがあるシャーデーです。それなのに累計5000万枚を売っているというのは本当に凄いことです。

 前作はマドリードで生まれましたが、今回はロンドンの古い家の地下から生まれました。マドリードで静かに結婚生活を送っていたシャーデー・アデュでしたが、結局、夫と別れてロンドンに戻ってくると、古いヘンな家を買って、地下をスタジオに改造したんです。

 「そこでメンバーとよく集まっていたのよ。仕事のためじゃなく、プレイするために、ね。そして自然発生的に」生まれたのがこのアルバムだということです。見事なまでに無駄な音を排したサウンドが素晴らしい。

 ジャケットが大きな話題になりました。そりゃそうでしょう。真っ白な地にアデュのセミヌード。セックス・シンボルと言われるのを嫌がった彼女ですけれども、どちらの方向にも頓着せずにまるで我が道を行っています。かっこいいです。

 面白いのはブックレットに配されたメンバーの集合写真です。それまでは、どこか浮世離れした風情で写っていた男性陣が、今作では髭を生やしたり、フリル付きのシャツを着たり、とにかく下世話な風情に変わりました。

 だからといってサウンドまで下世話になったわけではありません。相変わらずハイ・センスなシャーデー・サウンドが展開しています。映画にも使われたシングル曲「ノー・オーディナリー・ラヴ」の円熟したサウンドなど素晴らしいの一言です。

 このバンドはデビュー当時からドラマーがいません。ドラムやパーカッションは使われていましたけれども、常にゲスト扱いでした。そして、今回はそのゲストですら最小限です。2曲にクレジットがあるのみで、それ以外は打ち込みサウンドの模様です。

 そのことが影響しているのかどうか分かりませんが、サウンドにおけるオーガニックな響きが少し薄れたように思います。その意味では、曲の作りはかなり異なるものの、デビュー作の頃のサウンドに回帰したといえるかもしれません。

 しかし、ペンギン・カフェ・オーケストラで知られるギャビン・ライトが率いるストリングスが活躍している点はデビュー作とは大いに異なります。アデュのボーカルもスケールを増して円熟してきています。とにかくカッコよすぎます。

 シャーデー・アデュは、「時流にのったことは一度もない。むしろデビューした頃から時流から外れていた」と語っています。アウト・オブ・デイトという、通常は時代遅れと訳される言葉を使っています。じんわりと孤高の音楽だということを実感します。

 話題曲は「パール」でしょう。ソマリアの女性の境遇を歌った歌です。自分自身であることだけを目指しているアデュのことですから、そこに邪心はありません。誰よりも唄う資格のある彼女の言葉は胸に刺さります。このアルバムもまた傑作でした。

Love Deluxe / Sade (1992 EPIC)