前作から1年強で届けられたシャーデーの二作目です。弥勒菩薩を思わせるシャーデー・アデュのポートレートが素敵です。この写真を撮ったのは、トシ矢嶋さん。75年に英国に渡って以来、四半世紀にわたりロンドンで活躍した写真家兼ライターです。いい写真です。

 デビュー作となる前作は息長く売れましたから、この作品はまだ前作がチャート入りしている時期に制作が開始されています。後のシャーデーを知った今となっては、わずか1年のインターバルというのは驚異です。

 発表当時の日本盤には、大伴良則氏による「ポップ/ソウル/ロックのサイドから見たシャーデー」と、青木啓氏による「ボーカル/ジャズのサイドから見たシャーデー」という二種類のライナーノーツが用意されました。

 シャーデー・アデュの「私たちが、ジャズ・バンドを目指していると考えている人がいたら、それは大変な驚きね」との発言も引用されており、彼女たちの音楽シーンにおける位置づけに悩んでいるのは日本だけじゃないぞということも強調されています。

 アデュの10代半ばでの音楽嗜好は、ソウルのマーヴィン・ゲイやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジャズではローランド・カーク、マイルス・デイヴィス、ロックではスティーヴ・ウィンウッドなどだったそうです。一本筋は通っていますが、なるほどと思わせるわけではありません。

 シャーデーの音楽は本当に不思議でした。決して難解なわけでもなく、この作品は英米であっさりと1位を獲得しましたし、日本でも大いにヒットするなど、一般的な人気も獲得しています。それでいて当時の音楽シーンにおいて特異な光を放っていました。

 プロデューサーのロビン・ミラーはパワー・プラント・スタジオを始めた当時気鋭のプロデューサーです。彼がプロデュースしたワーキング・ウィークなどは、当時ややシャーデーに近い気はしましたが、やはりシャーデーは別格でしょう。前作はミラーの出世作ですし。

 この作品は、「スパニッシュの色彩を取り入れて、フレッシュかつ荘厳な仕上がりとなったセカンド・アルバム」と紹介されています。「スパニッシュ」というところには首をかしげますけれども、言わんとしていることは分かります。

 前作に比べると、オーガニックな香りが強いんです。前作も、特にエレクトロニクスを駆使していたわけではないのですが、サウンドはまろやかなエレキの香りが強かった。それに対し、今作では音の像がよりシャープかつナチュラルに見えます。

 基本的にスタジオでライブ録音されているそうで、バンドとしての一体感も強く、最大の魅力であるシャーデーのボーカルもオーガニックです。それなので、「ウォー・オヴ・ザ・ハーツ」のピコピコ音がなんとなく居心地が悪いです。

 代表作となった「スウィーテスト・タブー」を始め、見事なまでに練り上げられた曲が続き、ハスキーなボーカルにマシューマンのサックスの組み合わせが得もいわれぬゴージャスさを醸しています。何とも非の打ち所のない素敵アルバムです。

Promise / Sade (1985 EPIC)