2012年に20年ぶりの復活アルバムを発表したパブリック・イメージ・リミテッドは、その後、順調な活動を続け、こうして2015年9月に12枚目となるアルバムを発表しました。前作に続き、自分たちのレーベルからの発売です。

 ピストルズ時代からレコード会社との確執に悩まされてきたライドンです。PiLの20年のブランクもそのせいだそうですから根深いです。それがこうして自主レーベルで自分のペースで活動できるようになったことは素晴らしいことです。ちょっと遅すぎましたが。

 ライドンはこのアルバムについて、「在庫があるうちに買え」とコメントしています。自主レーベルを運営しているだけに、あまり冗談ともとれません。さらには配信はしていないのか、ちょっと気になりました。

 本作品のメンバーは前作と同じです。プロデューサーに一人名前が加わっていますが、概ね同じと申し上げてよいでしょう。ルー・エドモンズ、ブルース・スミス、スコット・ファースにライドンの4人組は不動です。

 前作についていたライブDVDを見た限りですが、この四人のまとまりは見事なものです。概ね三人だけのタイトな演奏に、この歳にしては伸びやかなライドンのボーカルが響きます。同世代としては驚きました。

 その勢いはそのままこの作品に反映されています。基本的には前作の延長線上にあるサウンドですが、新生バンドの2作目らしく、随分と落ち着いた雰囲気が感じられます。余裕綽々のサウンドです。

 ただし、先行シングルの「ダブル・トラブル」を聴いた時にはびっくりしました。まるでパンク時代に戻ったかのようなサウンドです。それに歌詞が面白いです。トラブルの正体はトイレが壊れたということです。

 イギリス人の知人は何年もかけてほとんど家を自分で作っていました。DIYショップの充実は半端ないので、トイレくらい自分で設置する人は結構多いですから、切実な話です。ライドンは比較的良くお金の話をしたりしますし、その生活は透明です。

 「音楽と人生における透明性」を自身の最大の業績だとライドンは語っています。人生に真摯に向き合う人です。「憎しみ、貪欲、軽蔑による行動」を最も嫌う人でもあり、それを念頭に歌詞に耳を傾けるとより分かりやすいです。

 本作品は前作と同じようだという批判もありますが、もはや大ベテランに言うことでもないと思います。「シューム」などはクラウト・ロックのような曲ですし、ダブ全開の曲もあれば、エドモンズのキラキラしたギターを中心にした楽曲もあり、いろいろな引き出しが開いています。

 ジョン・ライドンがようやくにして到達した境地です。これほど楽しそうに落ち着いて制作されたアルバムはないのではないかと思います。大ベテラン4人によるサウンドは、ニュー・ウェイブの現在形を示していて、同じように歳を重ねた私にはとても眩しく映ります。

What The World Needs Now... / Public Image Limited (2016 PiL Official)