シャーデーのデビューは「世界の音楽シーンにクールな衝撃を与え」ました。ジャズ、R&B、ロック、ラテン、ポップのどれでもあり、またそのどれでもないという不思議な音楽でした。1984年当時、こんな音楽は聴いたことがありませんでした。

 ニュー・ウェイブ時代には誰も聞いた事がない新奇な音が追求されていました。シャーデーの音楽はそれとは異なり、温故知新的に過去の音楽のエッセンスを吸収し、それを再構成してみせるコロンブスの卵的なものでした。新しくないのに新しい。

 シャーデーは、ナイジェリア人と英国人のハーフであり、ナイジェリア生まれでイギリス育ちのシャーデー・アデュを中心とする4人組です。油断するとシャーデーと仲間たちかと思ってしまいますが、ちゃんとしたバンドです。

 シャーデーは、クラブ・シーンで活動していたジャズ・ファンク・グループのプライドを母体に誕生しました。プライドにシャーデーがそのルックスをかわれてコーラスで参加することになったのがきっかけだそうです。

 このプライドのメンバーのうちの3人がシャーデー・アデュとともに独立してできたのがシャーデーです。この経緯を乗っ取りだと言う人もいれば、彼女が放り出されたと言う人もいますし、レコード会社のせいだという説もあり、この手の話にご多聞に漏れず諸説紛々です。

 シャーデーの代表曲として知られる本作冒頭の「スムース・オペレーター」の曲作りにはプライドのシャーデーに入らなかったレイ・セント・ジョンが全面的に係わっていますから、さらに話はややこしいです。

 ロンドンを中心に活動していた彼女たちはデビュー前にすでに1000人を越える客を集めるまでに話題を集めていました。満を持したデビューだったわけですが、その前にはデモがいろいろなレコード会社に却下されたそうです。当時はこの斬新さを理解するのが難しかった。

 1984年といえば、イギリスはアシッド・ジャズ夜明け前です。シーンは胎動していましたし、加えてヴィンテージ・ソウルやファンクがニュー・ウェイブ後期からじわじわ盛り上がってきていました。シャーデーのサウンドはその胎動を完成形で提示してみせたと言えます。

 しかし、シャーデーは孤高のバンドです。アシッド・ジャズやクラブ・ジャズの元祖と言われることもありませんし、そもそも何かのムーブメントとのかかわりが論じられることも少ない。シャーデーはシャーデーというカテゴリーに属しています。

 サウンドは見事に絹のような手触りです。ジャズでありソウルですけれども、そのままではない。「ブラック・ミュージックのエッセンスがほとばしるソフィスティケイトされた楽曲」はとにかく、クールでカッコよかった。今聴いてもカッコいいです。

 今となっては珍しくもないタイプかもしれませんが、それはシャーデーが今の音楽シーンの基礎を作ったからです。シャーデーがいなくても、いずれ誰かが手を染めたのでしょうが、それを圧倒的なクオリティーでやってのけたシャーデーは凄いです。

Diamond Life / Sade (1984 EPIC)