帯に書いてある通り、「PiL、20年振りとなるニュー・アルバム」です。20年です。もはや前作発表時に生まれた子どもは大人になりました。ピストルズが活躍していた頃のロックの時間軸とはまるでかけ離れています。

 パブリック・イメージ・リミテッドは1992年に解散しましたが、2009年に再結成を果たしました。メンバーはもちろんボーカルのジョン・ライドンを筆頭に、ギターのルー・エドモンズ、ドラムのブルース・スミス、ベースにスコット・ファースの四人です。

 解散するまで長いこと一緒にやっていたギターのジョン・マッギオークは残念ながら2004年に亡くなってしまっています。彼が存命ならば参加していたことでしょう。ブルース・スミスとルー・エドモンズも解散時にはいなかったにしても後期PiLを支えたメンバーです。

 スコットだけが新顔です。彼はスティーヴ・ウィンウッドやエルヴィス・コステロと仕事をしていたといいますから、ミュージシャン仲間では評判が高かったのでしょう。スパイス・ガールズとも仕事をしたかと思うと、自らジャズ・バンドも率いているという才人です。

 ルーとブルースはライドン同様、ニュー・ウェイブの中心にいた人です。やはり同世代で気があうんでしょう。お互いが同じ音楽の土俵に上っていると言ってよく、ニュー・ウェイブ的な感性が見事にシンクロしています。

 かつてニュー・ウェイブと言われたサウンドは、オールド・ウェイブではない、パンクとも少し違うということが定義のようなものでしたから、特に強い音楽的なまとまりがあるわけではありません。パンクと呼び難い若いバンドがニュー・ウェイブと呼ばれていました。

 ですからニュー・ウェイブ的サウンドと呼ぶのは違和感があるのですけれども、PiLのこのアルバムを聴くと、ニュー・ウェイブ的だなあと思わざるを得ません。シンプルにドラムとベースにギターを中心にしたサウンドが運んでくる空気感はニュー・ウェイブです。

 ソロ・アルバムとは異なり、完全にPiLとしてのバンド・サウンドになっています。サウンドに一本筋を通しているのが、ブルース・スミスの力強いドラムです。ファンキーではないストレートなドラムがサウンドの表情を決めています。

 そしてライドンのボーカルはソロとはうって変わって力強くシャウトします。年齢相応の深みを湛えつつも若々しい。ルー・エドモンズのニュー・ウェイブ的なギターとともに、こちらの頭にある音楽の受け皿にぴったりシンクロしてくれます。

 しかし、古臭いと言っているわけではありません。サウンドは新鮮ですし、曲も素晴らしい。重厚感のあるメロディーとリズムがずっしりと迫ってきます。正直、これだけのアルバムを作る力が残っていたのかと驚きました。

 何のための再結成なのか、いろいろと取沙汰されましたけれども、サウンドを聴いていると、単にまたやりたかったからということではないでしょうか。きっかけはあるにせよ、ジョン・ライドンの音楽にかける情熱は少しも損なわれていなかったということです。

This Is PIL / Public Image Limited (2012 PiL Official)