ヤコブ・ボグダーニはハンガリーに生まれ、英国で活躍した画家です。活動期間は17世紀から18世紀にかけてで、静物画と異国情緒あふれる鳥の絵で王室御用達となっています。その彼の絵画をジャケットに持ってきたとは天晴です。

 昔はFMファンという雑誌におまけでカセットテープのジャケットが付いていました。エアチェック後のテープに使用せよというもので、私はこのプロコル・ハルムのジャケットに魅せられ、FMラジオからエアチェックしました。大変懐かしい。変形ジャケ買いです。

 この絵画に象徴されるように、ここでのプロコル・ハルムの音楽は爛熟の極みといってよい香りをむんむんと放っています。前二作と異なり、オーケストレーションはさほど目立たないのですけれども、むしろ爛れた匂いが濃いです。

 前二作でオーケストラを使い過ぎて飽きてしまったとゲイリー・ブルッカーは語っています。そこで、今回はバンド・サウンドに戻り、より生々しいサウンドになりました。勇気ある行動です。実際、売り上げは随分落ちてしまいました。

 しかし、解説で大貫憲章が「一般的に言えば、本作は失敗作なのかもしれない。しかし、ぼくには彼らの後期の作品の中で一番好きな作品」だと告白しています。そもそも解説に憲章さんというのも意外ですが、この言明ももっと意外です。

 というのも私もこの作品が一番好きな作品なんです。後期のみならず、プロコル・ハルムの全歴史を通じて最も好きです。特にA面は飽きるほど聴きました。1曲目の「狂夢」から「国境の彼方に」、「サムソンのように強く」そして「アイドル」への流れは完璧です。

 「狂夢」って凄い放題ですけれども、いきなり力強いロック・チューンで幕を開けます。そしてヨーロッパ的な力強いバラードである「国境の彼方に」と続きます。このボードヴィル的なリズム感覚が素晴らしいです。

 そして、私が最も好きな「サムソンのように強く」に続きます。くるくる回る節回しが素晴らしい楽曲で、ブルッカーのボーカルが冴えわたっています。相変わらず変な歌詞ですけれども、ゲストのBJコールのスティール・ギターとオルガン、ピアノが光ります

 とりわけ評価が高いのはA面最後の「アイドル」です。もちろん日本で言うところのアイドルではなくて、本当に偶像のことです。しかし、私はこのアルバムをPCゲームをしながら聴いていたこともあって、瑞穂ちゃんや鮎ちゃんを思い起こします。何とも切ない。

 B面も聴かなかったわけではないのですが、A面が素晴らしすぎて。B面の五曲も1曲ずつ
特徴があって、聴く者を全く飽きさせない作りが見事です。これまでの紆余曲折を経てきた道行の果てに、余裕を感じさせる境地に達しています。

 というわけで、私的には圧倒的に最高傑作なのですけれども、彼らのアルバムはどれも傑作だという人がいるのが面白いです。人それぞれにプロコル・ハルムは異なる姿を見せているんです。地味なバンドですけれども、愛している人は多いはずです。

Exotic Birds And Fruit / Procol Harum (1974 Chrysalis)