PiLはほとんどジョン・ライドンのソロ・プロジェクトだと観念されていたにも係わらず、ジョン・ライドン名義のソロ・アルバムが発表されたことに驚きました。ライドンが一人でPiLの名前を使ったところで、何もおかしくないはずなのに。

 しかし、この作品ではライドンがほとんど全ての楽器を演奏しているということを知って、少し合点が行きました「とにかくパーソナルなアルバムということで、ほぼ全部一人でやりたかった。」とライドンは語ります。

 前作発表後のツアーを終えると、1992年にライドンはPiLを休止してしまいます。その後、1996年になって、まさかのセックス・ピストルズ再結成という事件がありました。「お金のため」あるいは「自分の中で清算するため」の再結成でした。

 その翌年に発表されたのがこのソロ・アルバムです。完成までには3年以上かかっているそうですから、アルバム制作中にピストルズが再結成されているわけです。清算説が当たっているのかもしれません。

 発表にあたっては、当初予定されていたアトランティック・レコードとの契約が中止になり、古巣のヴァージンと契約を結びました。制作期間が長いのはそんな事情もあった模様です。レコード会社も自信がもてなかったということでしょう。

 ジョン・ライドンは楽器をちゃんと習ったことがないはずです。そんなわけで、これまで溢れ出てくるアイデアを形にしてくれるミュージシャンが不可欠でした。しかし、デビューから時間もたち、機材も進歩してきたので、何とか一人でも出来るようになったのでしょう。

 ということで、自宅のスタジオに籠ってしこしこと作り上げたアルバムです。「一人でやるのはリスクも大きいけど、あえてそれにチャレンジした」とのことで、結果はいろんなアイデアが詰め込まれたなかなかの力作になっています。

 ただし、あまり楽器の上手ではないアーティストが自宅で制作したというわけですから、いわば丁寧に作られたデモ・テープという感じがしないではありません。リラックスした雰囲気で奏でられるネイキッドなサウンドは、確かにとてもパーソナルです。

 ほぼ世代を同じくするアーティストのパーソナルな作品なので、ある意味ではとても分かりやすいです。次々と繰り出されるプチ冒険の数々は、すっと腑に落ちてきます。ライドン史上最も叫ばないボーカル・スタイルもパーソナル感を強めています。

 デモのように感じる大きな理由は、5曲収録されている他のアーティストによるリミックス作品の完成度が高いことにもあります。ケミカル・ブラザーズ、レフトフィールド、モビーなど、当代きっての若手によるゴージャスかつアグレッシブなサウンドが刺激的です。

 そしてミックス作品の方がボーカルも生き生きしています。やはりアイデア豊富な人であっても、最新の音楽事情にはどうしても疎くなるのでしょう。ライドンは信奉者に支えられて、シャウトしている姿が一番カッコいいわいと再認識した作品です。

Psycho's Path / John Lydon (1997 Virgin)