このジャケットは何の絵なのか、大そう表現ぶりに困ります。やっぱりあちら方面なんでしょうか。しかし、これは三流アーティストの手になるものではありません。このジャケットを手掛けたアルマンド・テスラはイタリアの有名なグラフィック・デザイナーです。

 彼は1960年のローマ・オリンピックの公式ロゴを制作した人です。一連の作品はなかなか魅せてくれます。1917年生まれで、このアルバム発表の翌月に亡くなっています。これは遺作ということでしょうか。俄然、ありがたみが増してきました。

 前作から3年近く経ち、PiLからはドラムのブルース・スミスが脱退してしまっています。それでも、ジョン・マッギオークとアラン・ディアスの二人は残っていますから、PiLの歴史からすれば超安定時代と言えるでしょう。

 今回はプロデューサーにデイヴ・ジャーデンを起用しました。彼は、アリス・イン・チェインズやフィッシュボーンなどを手掛けていたエンジニア系の人です。PiLとの関係から見ると、この二つのバンドの名前は意外なようなそうでないような、微妙な感じです。

 制作はジャーデンの本拠地であるカリフォルニアのバーバンクで行われました。PiLにとっては「アルバム」以来のアメリカ録音です。このことは何となくサウンドに影響を与えているように思います。やっぱり明るい。

 当初、ブルース・スミスの穴はプログラミングで埋めようとしたそうですが、やはり人力ドラムが必要だということで、当地のセッション・マンだったカート・ビスクエラが起用されます。スミスのドラムとは随分感覚が違います。カートの方が普通にポップです。

 カートは、シーナ・イーストンやベリンダ・カーライルのツアー・ドラマーをやっていたといいますから、自己主張が激しすぎない縁の下の力持ち的な性格なんでしょう。もう一人セッション・マンのグレッグ・アレグィンが参加しています。こちらも幅広いセッションに参加しています。

 驚きのゲストはタワー・オブ・パワーです。ファンクばりばりの大ベテランとの共演に心ときめきます。彼らは「カバード」と「グッド・シングス」でホーンを演奏しています。これまでのPiLの音とは随分違う、ラテンっぽいファンキーです。

 アルバム冒頭の「アシッド・ドロップス」にピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」の有名なフレーズ、♪ノー・フューチャー♪がサンプリングされていることが話題になりました。プロデューサーの冗談から始まったにしては、結構決まっています。

 ピストルズの曲をサンプリングするほどに、自身の過去について冷静になったということなんでしょう。ピストルズにも初期PiLにもとらわれずに、マッギオークやディアスとともにのびのびと曲作りをしていることが伺えます。

 曲も粒ぞろいで、意外と隠れた傑作です。同時代的にはどうなのか、当時聴いていなかったので何とも言えませんけれども、20年経って耳を傾けると、妙にしっくり来ます。マッギオーク節をまとったライドンのボーカルはこれまた素晴らしいです。

That What Is Not / Public Image Limited (1992 Virgin)