日本ではスピリチュアルというと何だか警戒しなければいけないと思わせるものがあります。一言で言うと胡散臭い。ましてや大衆音楽の世界でスピリチュアルとなると、音楽自体の質が低いことを糊塗しようとする鬱陶しさが先に立ちます。

 しかし、インドでは音楽ショップに行けば「デヴォーショナル」のコーナーがあって、スピリチュアルで宗教的な音楽がたくさん並んでいます。生活の中にスピリチュアルが息づいているので、スピリチュアルは何ら特殊なことではありません。

 1979年生まれのニケル・クマール・マハジャンがスピリチュアルな音楽を追及したからと言って、さほど変なことではありません。胡散臭いと思う人はほとんどいないと思います。堂々とHPで宣言してもちっともおかしくないのです。

 ニケルは小さい頃から抽象的な芸術を通じて精神世界を表現しようとしてきました。その彼が選び取った形式がエレクトロニカであったというわけで、電子音楽を通じてスピリチュアルを表現することになりました。

 彼のステージネームの一つがサッティヤナンダです。いくつかの名前を使いわけていますけれども、結局はサッティヤナンダが基本になっているようです。これは彼のデビュー作にあたますから、サッティヤナンダとしてデビューしたことが分かります。

 カリ・ユガとしてのニケルはプログレッシブな音楽を奏でていたのに対し、サッティヤナンダはよりスピリチュアルに傾倒しています。自身を音楽家と言うのにためらいを感じる彼ならではの名前の使い分けでしょう。

 サッティヤナンダはサンスクリットで意味は「真実の無上の喜び」というほどのものです。喜びの最上級です。「自我の内奥に時を超えて旅をし、意識の大海である『力』と一体化する」深く精神的な喜びを目指していると言ってよいでしょう。

 リズムを中心に組み立てるというよりも、よりドローンを中心としたエレクトロニカ・サウンドになっているので、宣言に違わず瞑想に向いています。このサウンドを鳴らしながら、自己を観想して目覚めを待つんです。

 付属のブックレットには各楽曲ごとに、美しい風景を中心とした写真と有名な導師の言葉が記載されています。写真はラダックやアンダマンの風景、修行者の祈りの姿、マハカレシュワール寺院の巡礼などでとても美しいです。

 選ばれた導師は、有名なOSHOことラジニーシやシッダ・ヨガの創始者ムクタナンダに加えてダライ・ラマなど、あまり節操がありません。スピリチュアルの先達は何でもよいというとても寛容な姿勢だと言いましょう。

 ひとくくりにするとニュー・エイジ音楽に分類されるサウンド展開で、エレクトロニカとして音楽的にイノベーションがあるわけでもない。ここはスピリチュアルが勝っています。瞑想音楽として実用性の高い音楽であると言えましょう。

Internal Activities / Sattyananda (2005 DadA)