普通の意味でバンドになったPiLの二作目です。アルバム・タイトルは本作品が9作目だということで「9」です。こんなタイトルの付け方にもジョン・ライドンらしさを見てしまうのがファンの性というものです。

 今回は前作と同じメンバーで制作されるはずでしたが、ルー・エドモンズが耳の病気でドクター・ストップがかかり、演奏には参加していません。しかし、ライドンはルーに作曲のクレジットを与え、しっかりと収入の道を確保したといいます。ちょっと良い話第二弾です。

 ルーを除けば前作と同じなんですが、このメンバーで制作するにあたって紆余曲折がありました。まず、本作品のプロデュースを再びビル・ラズウェルに任せる話が進行します。ラズウェルとライドンはケンカ別れしたはずなんですが、何があったんでしょう。

 呼ばれたラズウェルは、バンド・メンバーを馘首することを求めます。ラズウェルは、ライドンはヘビメタ・サウンドをバックにシャウトすべきだという信念をもっていました。その方がアメリカの聴衆には受けると。

 ラズウェルは「アルバム」同様に、彼の人脈でミュージシャンを連れてくることを求めたということです。たとえば、ドラムにはブルース・スミスよりもジンジャー・ベイカーが良いというのが彼の意見です。これではなかなか話が前に進まない。

 ライドンはもちろんラズウェルの話を断り、ようやくバンドでの制作が始まったという次第です。普通のバンドのあり方を選んだということでしょう。代わりのプロデューサーは、ペット・ショップ・ボーイズのブレイクを支えたスティーヴン・ヘイグです。

 さらに曲によっては、トーキング・ヘッズやトム・トム・クラブを手掛けたエリック・ソーングレンが関与しています。プロデューサーまで普通の80年代バンドのようになってきました。当時はそこが何ともやりきれなくて、実はリアル・タイムでは初めてアルバムを買いませんでした。

 PiLは当初ピストルズの亡霊に悩まされていましたが、この頃は、「メタル・ボックス」と「フラワーズ・オブ・ロマンス」の呪縛に苦しんでいました。私などもその典型だったわけです。耳を閉ざしてしまいました。

 しかし、随分後になって初めてちゃんと聴いた時には、その出来栄えに感動すら覚えました。80年代も終わりの年に発表されたこのアルバムは同時代のロック作品として文句のつけようがありません。曲もよく出来ていますし、サウンドも素晴らしい。

 特にラズウェルが却下したブルース・スミスのストイックなドラムは素晴らしい。ジョン・マッギオークの流麗なギターも前作以上に活躍していますし、全体に音が引き締まっています。ライドンのボーカルも落ち着いたシャウトが素敵です。

 思うに、PiLのディスコグラフィーは年代順が逆だった方が、一般受けしたでしょうし、何よりも分かりやすかったような気がします。このアルバムなど、もっともっとヒットしてもよかったのではないでしょうか。何気に傑作です。「ウォリヤー」なんて最高です。

9 / Public Image Limited (1989 Virgin)