まさかジョン・ライドン、いやジョニー・ロットンから「ハッピー?」と聞かれる日が来るとは思っても見ませんでした。またまた意表をついたタイトルです。同じタイトルの曲は次のアルバムに入っているという、何とも一癖ある行動にでる人です。

 今回のパブリック・イメージ・リミテッドは普通のバンドになりました。彼らの歴史上では初めてのことです。普通のバンドになるということが事件になるほど、PiLは特殊なユニットでした。ジョンのソロというわけでもありませんし。

 バンド・メンバーは、まずはギターにマガジンからスージー&バンシーズで活躍していたジョン・マッギオーク、ドラムにザ・ポップ・グループからリップ・リグ&パニックへと移っていたブルース・スミス、そしてギターとキーボードに元ダムドのルー・エドモンズとなります。

 ベースのアラン・ディアスはブライアン・フェリーのバンドに一時期在籍していたそうです。そのディアスを除けば、いずれもパンク/ニュー・ウェイブの重要なバンドで活躍していたアーティストばかりです。ライドンと同じ畑と言ってよいと思います。

 しかも、アルバムを制作する前に、欧米諸国をツアーしていますから、バンドとしての一体感も醸成されていました。リハーサルも入れればかなりの時間を共に演奏していたことになりますから、正真正銘のバンドになったわけです。

 パンク/ニュー・ウェイブがほぼ過去のものになりつつあった1987年にこういう構成のバンドを組むということはあまり褒められたことではありませんでした。昔取った杵柄を再度振るおうと仲間が集まったという、ちょっと情けない感じが出てしまいます。

 そんなわけで、発表当時はいよいよジョン・ライドンにも焼きが回ったかと寂しい気持ちになったものでした。また、サウンドが妙に耳に馴染むんです。ブルースの人力ダブなドラムや、マッギオークのニュー・ウェイブなギター、ライドンの叫び。あまりに心地よい。

 当時は心地好ければ好いほどにわだかまりが膨らんでいったんですけれども、こうして時が経ってみると、87年であろうが78年であろうがあまり変わらなくなってきて、そんなわだかまりも吹っ飛びました。そうなると単純にPiLサウンドが楽しいです。

 プロデュースにあたったのはゲイリー・ランガン、当時ぶいぶい言わせていたトレヴァー・ホーンの右腕として、アート・オブ・ノイズに参加していたスタジオ・エンジニアです。当時の最先端サウンドの作り手だったと言ってよいでしょう。

 そこはかとなく80年代後半を感じさせつつも、基本的にはパンク/ニュー・ウェイブに軸足を置いた、ポップなサウンドはなかなか聴き応えがあります。だんだん盛り上がってきた後半部が特にいいです。キラキラしたギターとライドンの叫ぶボーカルが良くマッチしています。

 ライドンのボーカルはポップな曲でも冴えます。あまり皮肉っぽく声を作るのではなく、比較的ストレートにビブラート声でシャウトするライドンはやはり不世出のボーカリストでしょう。大したヒットにはなりませんでしたが、良いアルバムだと今はしみじみ思います。

Happy? / Public Image Limited (1987 Virgin)