シンプルに商品名を配したジャケットは当時流行り出したノー・ブランド商品を模したものです。その代表格だった無印良品が今や一大ブランドになっているのは皮肉なことです。この場合は「アルバム」と書いてありますが、CDには「コンパクト・ディスク」と書いてありました。

 さらに盤面には「レーベル」と書かれている凝りようです。ありがちな発想かと思いますが、流行りのその裏側を行くということで、ここにも二重の皮肉が隠されていそうです。どうしてもジョン・ライドンのやることは深読みをしてしまいます。

 本作品はPiLの5枚目のスタジオ作品にして初めて外部プロデューサーを起用した作品です。そのプロデューサーとは当時のして来ていたビル・ラズウェルです。ジョン・ライドンはニューヨークにてアフリカ・バンバーターとの共演しますが、そのプロデューサーが彼でした。

 意気投合した二人はアルバムの制作に取り掛かります。当時、ジョンのバックを務めるバンドの面々はすべて解雇され、ここではラズウェル人脈の大物ミュージシャンが揃いました。クレジットは一切なかったので、発表当時はざわめいたものです。

 それもサウンドは各段にヘビーになり、重量感に溢れるサウンドはそれまでのPiLサウンドとは明らかに一線を画していましたから。どこかパンク/ニュー・ウェイブ的な屈折を持っていたこれまでとは違うメジャー感がありました。明るくぐいぐい押してきます。

 参加ミュージシャンを知って驚きました。まずはどすどすと響くドラムが元クリームのジンジャー・ベイカーです。そしてもう一人のドラムがトニー・ウィリアムスです。どちらもドラム界では名の通った超絶ドラマーです。ベイカーの参加はライドンの要請によるもののようです。

 そしてバリバリ弾きまくるギターはフランク・ザッパ門下の超絶変態ギタリストのスティーヴ・ヴァイです。本人もベスト・ワークの一つに挙げているほどで、とにかく縦横無尽に弾きまくっています。ライドンは録音を聴いて、あまりに求める音だったので驚いたそうです。

 さらに日本からは坂本龍一が参加しています。最後の曲「イーズ」のガムラン調の出だしなどは教授ならではだと思います。その他にもアート・アンサンブル・オブ・シカゴのマラカイ・フェーバースやヴァイオリンのシャンカールなど異色の顔ぶれが並んでいます。

 こんな豪華メンバーを背景にジョン・ライドンは気持ちよさそうにテンションも最高潮に歌いまくっています。ストレートにシャウトするライドンのボーカリストとしての力量は凄いものがあると思ったものです。やはり、ライドンはパンク界最高峰のボーカリストです。

 サウンドはそれこそあっけらかんとしたハード・ロックです。しかし、叙情に流れることは一切なく、ひんやりしたクールな持ち味は変わりません。多くのアイデアはライドン発案になるそうで、その豊富さにはラズウェルは驚きっぱなしだったとか。

 ベイカー、ヴァイ、ラズウェル、ライドンでバンドを結成する話があったそうです。実現していればスーパーグループ誕生に世間は沸き立っていたことでしょう。このアルバムの素晴らしさを思うにつけ、バンド構想が実現しなかったのは返す返すも残念なことです。

Compact Disc (Album) / Public Image Limited (1986 Virgin)