PiL史上最大のヒットとなった「ラヴ・ソング」が入ったアルバムです。この曲を最初に聴いた時には感動しました。ダンス・ビートがとてつもなくカッコよかった。それまでのPiLの作風とはかなり異なりますが、ジョン・ライドンのボーカルは新しい局面を切り開いたように思いました。

 アルバムはかなりのごたごたの末に誕生しています。「フラワーズ・オブ・ロマンス」発表後のPiLはジョンとキース・レヴィンの二人にジョンのガールフレンドだったと思われるジャネット・リーを加えた三人になっていました。

 しかし、ジャネットはジョンと破局して脱退、別のメンバーを加えてのセッションを行いますが、うまくいかずに放棄され、結局、マーティン・アトキンスを呼び戻すことになり、その3人でレコーディングが始まります。その後ベースを加えた4人でセッションが続きました。

 この一連の録音も発表までは難儀して、結局、シングルとして「ラヴ・ソング」が発表されました。これが大ヒットするのですが、ミックスを巡ってキースとジョンが対立し、キースは自身のミックスによる音源をレコード会社に持ち込むという挙に出ます。

 キースは結局このセッションのテープをもとに「コマーシャル・ゾーン」なるアルバムを世に問うことになりました。本作品発表直後のことです。ここまでこじれることも珍しいです。結果、「コマーシャル・ゾーン」は惨敗です。詰めが甘かったとしか言いようがありません。

 ライドンとアトキンスはロンドンで新たにメンバーを加えてセッションを行います。日本ツアーにも同行していたルイス・バーナディも残され、ロンドンのセッション・ミュージシャンも加えた演奏になっており、これが本作になりました。

 ファンにとっては、この一連のごたごたは格別に嬉しかったです。いかにもジョン・ライドンらしいエピソードだと感心して見ていました。ライドンは特異な地位にあるので、とにかく何をやっても許される。本人は大変でしょうけれども、ファンは嬉しい限りです。

 サウンドの方は、とてもコマーシャルになってきました。ロックらしいはつらつとした感覚が戻って来ています。「フラワーズ・オブ・ロマンス」の出来の悪いアウトテイク集だとか、PiL史上最低のアルバムだとか酷評されるのは分かりやすさがゆえでしょう。

 特にA面は、東京のライブでも披露されていた「バッド・ライフ」と「ソリテア」が、「ラヴ・ソング」をはさんでいます。いずれもダンサブルでタイトな楽曲です。解説の赤岩和美はこれを「PiL流のファンク&ダンス・ミュージック」と表現しています。力強いリズムがカッコいいです。

 それに対してB面は「民俗音楽や電子音楽を配した実験色の強い側面」が現れているとされています。確かにそうなんですが、これまでのPiL作品に比べると格段に分かりやすい。普通のロック・バンド仕様です。

 「これはラヴ・ソングではない」という皮肉な題名ながら、「ラブ・ソング」を書いたジョン・ライドンのメタ工作は皮肉屋らしい所業ですが、ライドン級の人には似合わないと少し思いました。サウンド同様、少し普通の人に近寄ってきたPiLサウンドの記録です。

This Is What You Want... This Is What You Get / Public Image Limited (1984 Virgin)