パブリック・イメージ・リミテッドの初来日東京公演は私も見に行きました。中野サンプラザ・ホールで行われたコンサートには、パンクの伝説を一目見ようと多くの観客が押し寄せました。私もその一人、いよいよ伝説が目の前に現れるとあって、興奮しておりました。

 そんな興奮した観客は、ジョン・ライドンが登場するや否や総立ちになったのですけれども、登場したジョン・ライドンは、いきなり、♪ティピカル・トーキョー・リアクション♪と皮肉をかましました。嬉しかったですね。悪童はこうでなければなりません。嫌な奴全開です。

 そして最後にアンコールでは、♪これが欲しかったんだろう♪とまたまた皮肉をかましながら、「アナーキー・イン・ザ・UK」を演奏するという暴挙に出ました。またこれも観客には大うけです。封印したはずのセックス・ピストルズをあっけらかんとやってしまう。

 普通ならばこだわってしまうところですけれども、ジョンの場合はその上をいく。世の中のしがらみに絡み取られるのではなくて、超然とした構えをとる。自らのパンク伝説を伝説として崇め奉るのではなく、それすらもネタにする。かっこいいです。

 会場ではプラスチックスの面々を見かけました。何と言ってもジョン・ライドンは数多くのアーティストにインスピレーションを与えた凄いアーティストなんです。確実に世の中を変えた人の一人でしょう。その情けない歳の取り方も含めてかっこいいです。

 それはさておき、このライブは名作「メタル・ボックス」と「フラワーズ・オブ・ロマンス」を支えたジャー・ウォーブルもキース・レヴィンもいません。かろうじて雇われドラマーのマーティン・アトキンスはいますが、その他の3人はツアーのためにリクルートしたミュージシャンです。

 急造バンドにてツアーを行ったということですから、PILのトリビュート・バンドだと言ってもそれほどおかしくない仕様です。もちろんボーカリストは本物のジョン・ライドンですけれども、メンバーからの積極的なサウンドへの貢献はあまりない。

 返って、ファンにとっては嬉しいバンドでしたけれども、なぜライヴ盤を制作するに至ったのか謎でした。パリでのライヴを発表したばかりですから、レコード会社も反対したそうですし。大鷹俊一氏の解説によれば、それはサウンド面へのこだわりなのだそうです。

 「日本で発売契約していた日本コロンビアにはマルチ・デジタル・レコーディングの最新の優れた機材、システムがあり、それを使って録りたかったのだ」ということです。すべての公演が終了後、1か月近くも東京に居残って、ミックスからカッティングまで完成させたそうです。

 しかも、専属ミキサーを同伴して来ていたとは驚きです。録る気まんまん。日本へはそのために来たのでしょう。ただ、ライドンの窮状を見かねた日本コロンビアの計らい説もあります。この二つのベクトルが12インチ・シングル2枚組に結実したのでしょう。

 そんなわけで、演奏自体は時計を一歩進めたというものでは決してありませんが、確かに音はいいですし、ジョン・ライドンの何をやっても凄いボーカルを堪能できますし、演奏は素直ですし、当時の思い出にはもってこいの作品です。東京みやげの一発です。

Live In Tokyo / Public Image Limited (1983 Virgin)