「メタル・ボックス」では明らかにPILサウンドの要になっていたぶんぶんベースのジャー・ウォーブルが脱退してしまい、何とベース・レスになったパブリック・イメージ・リミテッドのスタジオ3作目は、そんな事情にも係わらず見事な傑作になりました。

 PILサウンドの要と不用意に書きましたが、もちろんPILの要はジョン・ライドンです。彼はアナーキーなボーカリストとしてのイメージが強烈すぎて、サウンドに対しては能無しなんではないかと思われているふしがあります。

 しかし、もちろんそんなことはなく、PILは結局、ジョン・ライドンの頭にあるサウンドを具現化するためのバンドだったんだろうと思います。そうなると、PILサウンドの方向転換があって、ジャー・ウォーブルが脱退したと考えたくもなります。

 この作品はジョン・ライドンとギターのキース・レヴィンの二人が中心になって制作されています。ベースレスで、パーカッション中心の作品なので、ドラムでクレジットされているマーティン・アトキンスが中心かと思うとそうではありません。

 マーティンは相変わらず雇われドラマーだったそうで、このアルバムでは半分もドラムを叩いていません。彼が叩いていない曲では、ジョンとキースがドラムやパーカッションをあれこれ試しているそうです。

 冒頭の「フォー・エンクローズド・ウォール」はとにかく強烈です。このドラムはマーティンで、このドラムとジョンの叫びがアルバム全体の色合いを決めています。それも♪アーラーッ♪と叫んでいるわけですから、「イスラム風」と評されるのも分かります。

 その他にも「宗教性を伴った呪術的な世界観」と言われます。ジョン・ライドンのさまざまな仕方で録音されたボーカルがミニマムなビートを背景に歌うさまは確かにまるで呪文のようです。叫ぶ呪文もありますし、呟く呪文もあります。いずれにせよ言葉に力があります。

 ベースレスと言いながら、時折ベースも使われていますし、ギターのみならずさまざまなサウンドがコラージュ的に使用されています。しかし、結局、聴き終わるとパーカッションとボーカルだけのアルバムであったように思ってしまいます。それほど強烈なんです。

 同時に、PILの研ぎ澄まされたサウンドに対するこだわりが凄いです。彼らは、マイケル・ウォルドー監督から「ウルフェン」のサントラ・オファーを受けていたとのことです。これは実現しませんでしたが、このアルバムの手法はサントラ的です。

 サントラだと思って聴いてみると、意外とすんなりと腑に落ちてきます。ポップ界では最もコマーシャルでないアルバムと自らを評していたようですけれども、サウンドトラックだと思えば、分かりやすい。先鋭的なサウンドも呪詛に満ちたボーカルもすべてが一つの世界。

 ジャケットの女性のいっちゃってる写真といい、アルバムから聞こえてくる何とも超然としたサウンドといい、パブリック・イメージ・リミテッドの最高傑作と評されることが多い傑作です。このアルバムを作ったことで、ジョン・ライドンの名前は不朽のものになりました。

Flowers Of Romance / Public Image Limited (1981 Virgin)