ケヴィン・エアーズの歌は三種類しかないと言われます。お酒を飲んでいる歌、酔っぱらっている歌、そして二日酔いの歌です。まことに上手いことを言う人がいるものです。そう言われてみると合点が行くことが多いです。

 それに従うと、ここに集められた曲の数々は、お酒を飲んでいる歌に分類されるのではないかと思います。酔っぱらっているとしか思えないアヴァンギャルドな曲や、黄昏ている厭世感漂う曲もありません。普通にキャッチーな楽しい曲ばかりです。

 ケヴィン・エアーズはソロ・デビューがハーヴェスト・レーベルからでした。そして、同レーベルに4枚のソロ・アルバムと何枚かのシングルを発表した後、1973年にアイランドに移籍しましたが、1976年にはハーヴェストに復帰いたしました。

 このアルバムは、ケヴィンがハーヴェストに復帰したことを契機に、ニュー・アルバムとは別に発表された、ケヴィンのハーヴェスト作品から編まれたベスト盤です。ですから、発表は1976年ですけれども、楽曲は1973年までに発表されていたものです。

 当時のハーヴェストはアルバム至上主義的な立場だったがために、シングルがアルバムに収録されないことも多かったので、このアルバムは隙間を埋めるには重宝します。洋楽の場合、シングルを収集するのはかなりハードルが高いものです。

 そして、この作品はリアルタイムで日本で発売されたので、このアルバムでケヴィンを知った人が多い模様です。私もその一人です。ケヴィンのようなアーティストは噂には聞いていても実際に音を耳にすることが難しかったので、嬉しかったものです。

 しかし、それまで噂に聞いていたケヴィンのイメージとは随分違ったことも事実です。大たい最初に聴いたのが「カリビアン・ムーン」です。ソフト・マシーンの、カンタベリーの、プログレの、フリー・ミュージック系の、といろんな噂の中で、この脳天気なカリビアンな曲です。

 かなり拍子抜けでしたけれども、実は奥が深かった。「不思議のヒット・パレード」の名に恥じないまさに不思議な魅力に満ちていました。聴けば聴くほど味わい深く、のめり込むというのではなく、頭に居ついて離れない魅力です。

 この作品には、シングル曲やアルバムのアウト・テイク、さらにはアルバム曲のリメイクが収録されており、オリジナル・アルバムの曲をそのまま収録したものはないという良心的なつくりになっています。

 さらにCD化に際しては、3曲のボーナス・トラックが収録されています。そのうちの1曲「レリジアス・エクスペリエンス」はシド・バレットとの幻のセッションです。シドが大いに活躍しているというわけではありませんが、話題としては十分です。

 ケヴィンのお酒を飲んでいる時の万人受けする状態を堪能するには大変結構なアルバムです。ベスト盤なのに妙に統一感もありますから、ちょっとケヴィンを聴こうかなと思い立った時にはちょうどいいアルバムです。

Odd Ditties / Kevin Ayers (1976 Harvest)