「オールド・マスターズ・ボックス」が発売された時には歯噛みをしたものです。最初期の5作品をボックス・セットに仕立てた作品には「ミステリー・ディスク」なる未発表音源集が付いていたんです。全部持っている作品のセットを買い直すわけにもいきません。涙でした。

 その後、「オールド・マスターズ・ボックス」には第二弾が出ました。こちらには次の7作品がまとめられていたもので、ここにも更なる「ミステリー・ディスク」が付いていました。悔しさは倍化したものです。

 第三弾も出ましたが、こちらには「ミステリー・ディスク」は付きませんでした。1985年、86年、87年の発表でしたから、ザッパ先生の意欲が別の方向に向けられていったのでしょう。おかげで悔しさの三乗は避けられました。

 しかし、そこはファンを大切にするザッパ・ファミリーです。1998年にこうして二枚の「ミステリー・ディスク」を一枚にまとめたCDが、ザッパ公式リリース第68弾として正式にリリースされました。米国に向かって感謝を捧げたものです。

 厳密には、「ミステリー・ディスク1」に入っていたシングル曲「ホワイ・ドンチャ・ドゥ・ミー・ライト」と「ビッグ・レッグ・エマ」がカットされています。これは2作目の「アブサリュートリー・フリー」に収録される形になったので、CDを一枚に収めるためにカットされました。全然OKです。

 実は、「ミステリー・ディスク」の音源の中には、「アヘッド・オブ・ゼア・タイムズ」や「ザ・ロスト・エピソード」、さらには「オン・ステージ」シリーズなどにちょこちょこ編集されたりして収録されたものがあります。

 そのことからして分かるように、ここに収録された音源はいずれもマザーズ時代かそれ以前のものです。デビュー前のギグもありますし、1969年頃の演奏もあります。一番新しいのは「ザ・ストーリーオブ・ウイリー・ザ・ピンプ」で1972年のインタビューです。

 アルバムを聴いてみますと、まずは、よくもまあこんなものを録音して残していたものだと感心させられます。女の子のインタビューやパーティーでの会話、MC、スタジオでのギグ、ラジオの記録、リハーサルなどなど、ありとあらゆるものが録音されて残されています。

 中には、しっかりした演奏も入っていて、ほっとさせられます。中でも1968年10月にロンドンのフェスティヴァル・ホールで行われたショーでは、BBC交響楽団のメンバー14人を交えて、漫談入りながら20分近い演奏記録になっています。

 マザーズの面々はもちろんのこと、キャプテン・ビーフハートも参加した音源もあり、全部で35曲、いろんな音が出てくるので飽きることなく、あっという間に時間が過ぎていきます。特に「ディスク1」部分はザッパ先生の解説が充実していて楽しいです。

 ボックス・セットのおまけにふさわしいです。作品としての完成度など考えることなく、面白そうなテープを寄せ集めたのではないかと思います。それが返って嬉しいです。ザッパ先生と仲間たちの若い頃の素の記録になっています。

Mystery Disc / Frank Zappa (1998 Ryko)