フェラ・クティの人生の中でも最も有名なエピソードの一つを正面から題材にした作品です。その名も「高価な糞」です。何ら比喩的な意味合いがあるわけではありません。そのまんま。「SHIT」は本来の意味であるうんこのことを指しています。

 ジャケットの説明によると、「制服を着た男たちが、俺がマリファナを飲み込んだと言いがかりをつけた。俺のうんこは試験所に出されたけれども、結果は問題なしだった。だから、お高くついたうんこになったんだ」ということです。

 事件が起こったのは1974年5月のことです。最初の逮捕・勾留から自宅に戻ったフェラを待っていたのは更なる家宅捜索でした。当時、ナイジェリアではマリファナを吸えば10年の刑期となる定めでした。

 フェラの部屋にはマリファナはありませんでしたけれども、捜索に来た警察官は1本のマリファナを見つけました。彼らがあらかじめ用意していたものです。これを突き付けられたフェラはとっさの判断でそれを飲みこんでしまいます。

 再び勾留されたフェラが胃の洗浄に激しく抵抗したので、当局はフェラが排泄するのを待つことになりました。しかし、獄中で囚人たちに助けられ、見事に問題のうんこの隠ぺいに成功します。最終的に採取できた便は、「まるで赤ん坊の便みたいにきれいなものだったよ」。

 結果、当局はフェラを告訴することができず、無事に放免されることになりました。腐敗した権力に対抗する痛快なお話です。この作品は、その出来事を直截に歌った曲からなる作品で、その痛快さから人気が高いことは容易に想像がつく話です。

 たしかに不正捜査に打ち勝った話としてはまことに面白い話なんですが、実際に家宅捜索にやってきた時、フェラはマリファナを吸っており、とっさに部屋にあったマリファナを全部口に押し込んでトイレで吐き出すという荒業をやっています。

 これを聞くと、あまり無邪気にフェラのことを礼賛するわけにはいきません。警察当局も詰めが甘かったとは言え、根拠のある捜査であったと言えます。ただし、フェラと当局との戦い全体は明らかにフェラに理がありますから、ここは目をつぶりましょう。

 サウンドは、ややゆったりしたアフロ・ビートです。一瞬、アフロ・ビート・バラードという言葉が浮かびました。よく考えるとバラードという言葉は誤解を生むので適当ではありませんけれども、さまざまなアフロ・ビートの中ではじっくり歌詞を聞かせるタイプの曲だと思います。

 詳細なミュージシャンのクレジットはありませんけれども、ここで素敵なトランペットのソロを聞かせてくれるのはアフリカ70のツンデ・ウィリアムスです。この頃のフェラは何をやっても素晴らしい。一つの絶頂期です。

 B面の「ウォーター・ノー・ゲット・エネミー」は、オール・ミュージックのレビューの通り、かなりジャズっぽい香りがします。これをB面にもってくるところがにくい。相変わらず両面に1曲ずつの構成がかっこいいです。

参照:「フェラ・クティ自伝」カルロス・ムーア(菊地淳子訳)

Expensive Shit / Fela Ransome Kuti & Africa 70 (1975 Soundwork Shop)