英吉利の薔薇、イングリッシュ・ローズは、日本で言えばヤマトナデシコにあたります。英国を代表する美人の形容です。ダイアナ妃の葬儀でエルトン・ジョンが亡き妃を♪グッバイ・イングリッシュ・ローズ♪と呼びかけたことが記憶に残ります。

 私としては、時代ものが多かった若い頃のヘレナ・ボーナム・カーターがその形容にぴったりだと思います。フランケンシュタインのヘレナではなくて。そんな由緒正しい英吉利の薔薇をあろうことがミック・フリートウッドの変顔で表現するとは何とも皮肉なお話です。

 この作品は、米国エピック独自の編集盤にして、日本では初めて発売されたフリートウッド・マックのアルバムです。英国でのセカンド・アルバム「ミスター・ワンダフル」から6曲、未発表曲1曲、シングル曲3曲、まだ発売されていなかった次作から2曲。凄い編集です。

 当時、アルバムというものはそういうものでした。日本での「英吉利の薔薇」はまた違う編集になっています。私が持っているのはオリジナル米国盤です。オリジナルっていうのも変な話ではありますけれども。

 ここでのマックは、ピーター・グリーンを中心に、ジェレミー・スペンサーとダニー・カーワンを加えたトリプル・ギター・バンドです。しかし、バンド名になっているのはフロントではなく、リズム隊のミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーそれぞれの姓ですから面白い。

 名前というのは面白いもので、バンド結成の立役者にしてフロントマンのピーターの名前を冠していたとしたら、フリートウッド・マックは一旦解散していたでしょうし、その後の成功もなかったのではないかと思います。言霊信仰が過ぎますが。

 この作品には、編集のおかげで初期マックの代表曲「ブラック・マジック・ウーマン」と「アルバトロス」が含まれています。そこのところがこのアルバムの評価を高くしている理由です。前者はサンタナのカバーで有名になったのに対し、後者はマック版が英国1位です。

 「アルバトロス」はピーター・グリーンによるインストゥルメンタル曲です。こんな曲が1位になるという事実に感動すら覚えます。確かに美しい曲で、三人のギターが絶妙にブレンドされた不思議な曲ですけれども地味です。

 ピーター・グリーンはクラプトンの後任としてジョン・メイオールのバンドに加入したというブルース野郎です。ジェレミーはエルモア・ジェイムスかぶれのスライド男ですし、この頃のフリートウッド・マックはびっしりとブルース・バンドです。

 アルバムはブルースを基調とした渋いサウンドがカッコいいです。ただし、そこは本場のブルースとは少し違いますから、まんまブルースにはならず、英国風ポップな味付けも感じられます。特に新加入のダニー・カーワンがポップな持ち味を持っています。

 思わず笑ってしまう衝撃的なジャケットに釣られて手に取った人も多いことでしょう。フリートウッド・マックのこの作品は地味に多くの人の心に訴えかけるものを持っています。60年代終わりごろの英国の溌剌としたシーンを彷彿させる良いアルバムです。

English Rose / Fleetwood Mac (1969 EPIC)