遺作となってしまいました。デヴィッド・ボウイの69回目の誕生日にリリースされたのに、その2日後には亡くなってしまうとは何ともやりきれない話です。ボウイは自分の病状を知っていたのでしょうから、そのことに思いを致すと胸が詰まります。

 「時代と共に変化し続ける、ボウイが創造した次なる芸術形式とは?その答えがここにある」ということで、好評だった前作とも異なり、新たな道に踏み出したボウイの姿がここにあります。「ロウ」や「レッツ・ダンス」に相当する変化がありました。

 プロデュースにあたったトニー・ヴィスコンティも、「やはりなにかしら過去の要素が入っていた」と認める前作に対し、今作は「斬新で、まるで別の宇宙からやってきたようだ」と語っています。死を目前にしてのこのエネルギーは凄いものです。

 一番の特徴はジャズ畑のミュージシャンの起用です。このところ目立ってきた新しいジャズの立役者の一人であるマリア・シュナイダーのオーケストラに参加しているミュージシャンたちが起用されています。

 「デヴィッドは今回、旧来のつきあいのミュージシャンを起用しなかった。ロックのミュージシャンがジャズを演奏するのではなく、ジャズのミュージシャンにロックを演奏させたかったんだ」とヴィスコンティは語っています。

 発想としては一時期のスティングのようなものでしょう。しかし、ここにあるのはジャズの最前線。ケンドリック・ラマーなどとも共演するジャズ、ロバート・グラスパーを中心とする一連の新しいジャズ。そんな刺激に満ちたジャズの世界が垣間見えます。

 ですから、ジャズジャズしている訳ではありません。この作品を聴いて、新しいジャズの音世界に分け入ってみる人も多いのではないかと思います。かつて、ボウイの音楽をきっかけにジャーマン・プログレを聴き始めた人が多かったように。

 サウンドはオーガニックでエレクトロニックという現在の音になっています。ここら辺りの音がまさにボウイの心を捉えた現在進行形の音なのでしょう。ボウイとともに歳を重ねてきて、最近新しい音楽を聴いていない人向けにもう一度復活を促す作品とも言えるでしょう。

 収録されている全7曲はいずれもこってりと仕上げられており、聴きどころ満載です。齢を重ねたボウイの声にも鬼気迫る迫力があります。そして、演奏陣の見事なアンサンブルが汲めども尽きぬ味わいをもたらしています。遺作は名作でした。

 デヴィッド・ボウイの音楽は変化し続けてきたと言われますが、それは彼がさまざまなキャラクターを作り上げたことと、起用するミュージシャンが入れ替わったことによります。もちろん変化には違いありませんが、意外と最初期から変わらないものもあります。

 それはボウイ節と声です。どんなにサウンドに変化をつけても歌いだせばボウイと分かりますし、曲の作り方にもボウイの姿が一貫しています。カリスマとしてのボウイに勝手に翻弄されてきましたが、完結してみると見事に筋が通っていたのだなあと思いました。合掌。

Black Star / David Bowie (2016 Sony)