ゴージャスなジャケットですけれども、Syokoはどこか病的な表情を浮かべています。白いドレスは病院を連想してしまいます。髪の毛のまとめ方もそうですし、赤いルージュもアンドロイドのような眼も、見ているこちらを不安にさせます。

 Syokoはインディーズ時代にはG-シュミットのリード・ボーカルで活躍しました。「時の葬列」にも参加していたバンドで、ゴシック、ポジパンの色彩が強いヴェクセルバルク・レーベルのスターでした。

 このバンドはメンバー交代が頻繁でしたけれども、Syokoは終始一貫してこのバンドの顔でした。それでもバンドはバンド、ソロ活動は格別なのでしょう。Syokoは1986年11月にソロ・デビューしています。

 バンドはメジャー契約はせずに、インディーズでの活動にこだわっていた模様ですが、ソロは別で、ソロ・デビュー作は東芝の系列から発表され、メジャーで流通しています。そして、このソロ第二作もWEAですから、大メジャーからの発表です。

 面白いことに、ソロ・デビュー作は久石譲と組んだ作品で、かなり実験的だと言うことです。次第にメジャーでも実験的な作品が普通に発表される時代になってきたわけです。この2枚目のサウンドも80年代ならメジャー作品とは思えないサウンドです。

 参加ミュージシャンは、EP-4などで活躍していたバナナこと川島裕二、キング・オブ・ノイズ、非常階段のJOJO広重、Pinkの矢壁篤信、インディーズの雄デッド・エンドの湊雅史など、インディーズ・シーンからの参加が目立ちます。

 かなり達者な演奏が繰り広げられていて、音そのものはインディーズの人が多いのにメジャー仕様です。もちろんアヴァンギャルドな音空間で、JOJOのトラックはノイズと詩の朗読状態です。しかし、それでもJポップばりにメジャーなしたたかさが光っています。

 特に力強いリズム・セクションは素晴らしいです。演奏だけ聴いていても十分に楽しめる作品です。そんな演奏陣を従えて、独自の世界観を紡いでいくSyokoは堂々として立派です。言葉がメジャーとインディーズの境目を漂っています。

 「Turbulence・・・乱気流。それは私の中で生まれ、私を越えてゆくものへの祈り。」。ジャケットに書かれた言葉です。さすがにジャケには選ばれた言葉が書かれます。彼女の歌詞の世界はこの言葉で代表することができます。

 「常にジレンマを抱えている人にしかわからないような音を作っていきたいですね」とかつて語ったことがあるSyokoは、乱気流にもまれながら二律背反の中を生きてきたのでしょう。このアルバムを最後にその消息は噂ベースを越えて伝わってはきません。

 メジャーから発表されたインディーズ・アルバムは完成度も高く、極上のサウンドに包まれながら、乱気流に連れていかれた女性があの世で歌っているような歌を聞かせて秀逸です。何だかやるせない気持ちになってくるアルバムです。

Turbulence / Syoko (1992 WEA)