久しぶりに全英1位となったアルバムです。「アラジン・セイン」、「ピンナップス」、「ダイアモンドの犬」に続く4作目です。スーパースターの名をほしいままにしていたデヴィッド・ボウイですが、意外にチャート・アクションは振るいません。

 特に、アメリカでの1位獲得は遺作となった「ブラック・スター」まで待たねばなりません。さらに言えば、ロック史上、評価の極めて高い「ジギー・スターダスト」や「ロウ」、「ヒーローズ」などは1位になっていません。

 このアルバムがヒットした最大の要因は「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」の成功でしょう。ミュージカル・ソウのような音が浮遊感をもたらすこの名曲は、「スペイス・オディティ」の続編で、トム少佐はジャンキーだったというオチを用意して、ボウイ伝説の一つに幕を下ろします。

 当時、この物語の有効性に驚いたことを覚えています。ボウイの出世作から10年以上の時が立ってなお、ボウイ神話に自らを重ねている人が多いことに驚きました。ボウイ物語はチャートを越えた深さで多くのファンに支持されていたわけです。

 この曲が典型です。これまでボウイが演じてきたさまざまなキャラクターはこのアルバムで一旦終止符がうたれます。ジャケットにはピエロ姿のボウイ。自らの道化師としての役割を自覚していたボウイの卒業制作とも言える作品になっています。

 多くの人が指摘するように「ファッション」は「フェイム」の続編的な色彩がありますし、ジャーマン風味は「スケアリー・モンスターズ」に顔をのぞかせています。冒頭と最後に同じ曲のパート1と2を持って来て強引にアルバムをまとめていなければバラバラになってしまいそうです。

 バンドは、ここのところの定番トリオである、カルロス・アロマー、ジョージ・マレイ、デニス・デイヴィスを基軸に、ルー・リードのバックを務めていたチャック・ハマー、スプリングスティーンのEストリート・バンドにも客演したロイ・ビッタンなどが加わっています。

 トニー・ヴィスコンティのプロデュースですが、イーノの名前は見えません。しかし、ロバート・フリップが再び客演していますし、何よりもピート・タウンゼントの名前が輝いています。1曲のみ参加ですが、独特のギターを刻印してインパクトが大きいです。

 カバーはテレヴィジョンのトム・ヴァーラインの曲「キングダム・カム」を取り上げて、パンク/ニュー・ウェイブへのオマージュとしています。オリジナルでも「ティーンエイジ・ワイルドライフ」など存分に歌謡曲的な曲もあって、アルバムのごった煮感を強めています。

 アヴァンギャルド方面では、何と言っても冒頭の日本語による語りです。元は日本語で歌うことを企図していたらしいですが断念し、ニューヨーク在住のヒロタ・ミチさんによるちょっとおばさんが入った語りを入れています。度肝を抜かれます。

 裏ジャケにはベルリン三部作のジャケットや「アラジン・セイン」だと思われる下半身などがあしらわれており、やはり70年代の総括と80年代への決意表明であることが分かります。デヴィッド・ボウイ33歳の新たな出発です。

Scary Monsters / David Bowie (1980 RCA)