どういう経緯かは存じませんが、このアルバムはジンジャー・ベイカーがプロデュースしています。あのスーパー・グループ、クリームのジンジャー・ベイカーです。ご案内の通り、フェラとベイカーは過去にアルバムを制作していますから、若干唐突なリユニオンです。

 ジンジャー・ベイカーは70年代の初め頃にナイジェリアを録音機材と共に訪れてフェラのところに滞在しています。その頃から、二人の親交はずっと続いていたということになります。フェラの英米音楽との接点というのは面白い研究課題です。

 以前の共作アルバムではベイカーがドラムも叩いていましたけれども、ここではトニー・アレンに任せています。ベイカーはプロデュース作業に専念している模様です。そんなことも考えあわせるとやはりベイカーがナイジェリアに来たんでしょう。

 トニー・アレンのドラムにももちろん魅了されたのでしょうが、ジンジャー・ベイカーが最も心を奪われたのはテナー・ギターとリズム・ギターのアンサンブルです。これはドラム以上にフェラのアフロ・ビートの特徴だと言えます。

 この作品では左右のチャンネルにギターを振り分けており、いつもより音が大きめに録られています。それだけでも一連のフェラ作品とは随分と趣きが異なっています。幻惑のサウンドがより堪能できるわけで、テナー・ギター好きの私には嬉しい限りです。

 そして、サウンドが全体にサイケデリックにきまっています。大たい出だしのパーカッションの音からしてサイケデリック丸出しです。そして、ホーン陣の音もよりシャープな音像ですし、ドラムやキーボードの音も時に歪んで録られています。

 一言で言えば、より英米のロックに近いサウンドです。もちろん、この時期のフェラのことですから、バリバリのアフロ・ビートなのですが、ニュアンスが英米ロック的だという程度です。そんな些細なところを楽しむのがファンの醍醐味というものです。

 今回は3曲入りです。タイトル曲はいかにして人々が道に迷い、その結果、混乱が生じてしまうのかということを語っています。ラゴスの町に迷い込んだゴリラ、耳の聞こえない人にだけ唄う歌手、そんな光景が次々と出てきている模様です。

 2曲目は,♪テイク4、ワン、ツー・スリー♪で始まる「月曜の朝、ラゴスにて」で、イゴ・チコでしょうか、クリストファー・ウェイフォーでしょうか、テナー・サックスが冴えわたっている粘っこい曲です。のたくるビートが素晴らしいです。フェラのボーカルはここではヨルバ語の模様です。

 3曲目は「イッツ・ノー・ポッシブル」です。これもフェラのカウントから始まります。金属様の打楽器は珍しいです。この曲もフェラにしては珍しいサウンドになっています。ジンジャー・ベイカーのセンスが全開です。

 全体を通して、フェラのオルガンが素晴らしいです。時にアンビエント、時にワイルドに響くそのオルガンは、ベイカーのフィルターを通すことで、また異なる魅力を発揮しています。このジンジャー・ベイカーとのコラボは素晴らしい結果を残していると言えましょう。

参照:フェラ・クティ自伝」カルロス・ムーア(菊地淳子訳)

He Miss Road / Fela Ransome Kuti & Africa 70 (1975 EMI)