ボウイの今度のキャラクターは「シン・ホワイト・デューク」となりました。キャラクター集めは辞めたのではなかったかと思いますが、今度のキャラは普通にボウイを形容したものですから、キャッチフレーズ的です。

 ボウイは前作の後、「地球に落ちてきた男」という映画作品に主演することになりました。そのためにロスに住むことになり、サントラ用にロスでスタジオ入りしました。そのセッションがサントラ用ではなくて、ボウイ自身のニュー・アルバムとなりました。それがこの作品です。

 前作でのフィラデルフィア・ソウルへの接近路線は、自らが「プラスティック・ソウル」と形容するように熱いソウルにはなり切らないボウイ独自のソウルに結果しました。シグマ・スタジオでの曲よりもニューヨークで録音した方がボウイらしかったですし。

 今回はそちらの畑でエスタブリッシュされたミュージシャンではなく、ニューヨーク録音に参加したデニス・デイヴィスをドラムに、それまであまり目立った活動の無いジョージ・マレイをベースに迎えて録音することになりました。ギターは前作同様カルロス・アロマーです。

 このトリオはこれからしばらくボウイを支えることになります。しっかりしたリズム・セクションですけれども、ウィークス&ニューマークに比べるとソウル度数はかなり下がります。しかし、それがボウイにとっては心地よいのでしょう。

 この時期、ボウイはコカインに浸っていたそうで、苦悩は深かったようですけれども、この作品は充実しています。全部で6曲で、一曲一曲が長めとなっています。それぞれの曲に込められた情熱はなかなか凄いものがあります。

 一般にホワイト・ファンクの傑作と言われる通り、前作では自分からソウル/ファンクに一生懸命近寄っていったのに対し、今回はソウル/ファンクを自らの手元に引っ張りよせたサウンドを展開しています。従前のボウイ・サウンド・ファンには嬉しいことです。

 一方で、次作からのベルリン三部作を彷彿させるサウンドにもなっています。サエキけんぞうさんは、三部作をこの作品からカウントし、最後の「ロジャー」を外すことを提案しています。その考え方はよく理解できます。次の二作の音の表情はこちらに近いです。

 ここからは「ゴールデン・イヤーズ」に「TVC15」がシングル・カットされ、そこそこのヒットとなっています。どちらもボウイのベストを編む時には欠かせない曲です。ボウイのボーカル・スタイルにはこれまでにないドスが効いてきました。

 この頃、ボウイはナチス・ドイツを礼賛するような発言を繰り返しており、ロスアンゼルスにいながら、ヨーロッパに戻っていく志向が現れてきています。ヨーロッパが最も嫌うナチスをもってくるあたりが、皮肉に満ちたことですが。

 ジャケットの写真は「地球に落ちてきた男」からのカットです。映画、ヨーロッパ、ファンク、ついでにコカインにナチス。様々な事柄がないまぜになって、最後のカバー曲「野生の息吹き」に行き着く展開は見事なものだと思います。

Station To Station / David Bowie (1976 RCA)