「黙示録の彼方に再び姿を現したボウイ―血の涙にうるむその瞳が今、地上のぼくたちを見つめている!」。今野雄二さんのライナーが熱いデヴィッド・ボウイの通算8作目です。おどろおどろしいジャケットはベルギーのガイ・ピーラートという画家の手になります。

 ガイ・ピーラートはストーンズの「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」のジャケットも手掛けた人です。このジャケットでは裏ジャケに性器をきちんと描き込んだがために、直ちに修正され、初版はほんのわずかしか出回らなかったというコレクターを喜ばせる人です。

 前作でジギーを完全に消し去ったボウイは、今度はダイアモンドの犬というキャラクターを発明します。ジギーが宇宙から来たなら、ダイアモンドの犬は近未来の世界です。大友克洋の「アキラ」を少し思い出しました。

 ボウイはジョージ・オーウェルの「1984」のミュージカル化を図りましたが、オーウェルの遺族の賛同を得られず断念しています。そこに雑誌で対談したウィリアム・バロウズからの影響が加わり、この「ダイアモンドの犬」が誕生しています。

 「1984」は極端なまでの管理社会を描いた名作でした。1984年をとうに過ぎ、そのような社会はまだ到来していませんが、オーウェルが想像した未来よりも現実の世界は進んでおり、あそこに書かれたようなことは今では実際に出来てしまいます。恐ろしい。

 アルバムのジャケット絵が象徴するように、サウンドもどこか重苦しく、もやもやとした黒い塊がスピーカーの上の方に漂っています。その意味では、今回のキャラクター設定も成功しています。ただ、あまりに救いがない。♪これはロックン・ロールじゃない。大量虐殺なんだ。♪。

 スパイダース・フロム・マースは解散してしまいました。盟友ミック・ロンソンが、ボウイのプロデュースでヒットしたモット・ザ・フープルに加入してしまい、ボウイの元を去りました。そのために、この作品ではボウイ自身がギターを弾いています。

 このギターがアルバムのサウンドを決定づけています。ボウイ自身はザ・ギタリストというには程遠く、ナマな粗削りのギター・サウンドが近未来の管理社会の荒涼とした世界観を表現していて見事です。

 本作からは「愛しき反抗」が大ヒットしています。この曲ではボウイが一人ですべての楽器をこなしているようです。ギターのみならず、この曲は全体から何とも言えないぎくしゃくした雰囲気が漂ってきます。パンクです。これが、ボウイの代表曲になっているのは面白いです。

 その中で、名曲「1984」の演奏だけが、妙にしっかりしています。ミュージカルの主題曲として気合を入れたプロデュースになっています。スパイダース・フロム・マーズとの録音もありますが、ここはアルバム用に録り直されています。

 アルバムは英国で1位、米国でも5位まで上がる大ヒットとなっていますし、アルバム発表に合わせて大がかりなツアーが組まれます。しかし、ボウイの「ダイアモンドの犬」は長続きせず、ツアーの途中でいなくなってしまいました。やはり救いがなさすぎた。

Diamond Dogs / David Bowie (1974 RCA)