大人買いという言葉があります。社会人になってから購入したものを大人買いと言うならば、私にとってCDは全て大人買いですけれども、一般にはそうではなく、子どもの頃に心ゆくまで買えなかった品物を大量に購入することです。

 ボックス・セットは大人買いを誘発するためにあるものです。すっかりその手にはまってしまい、コンラッド・シュニッツラー「アーリー・ワークス」ボックス・セットを購入したので、この作品が特典として手に入りました。

 コンさんの作品は「コン」と後にたまたま入手した「コン・ブリオ」の2作品しか聴いたことがなく、そもそも彼のディスコグラフィーもインターネット時代になるまで全く知りませんでした。「コン」が好きだっただけに長い間飢餓状態に置かれていたわけです。

 だからこそボックス・セットで買う。大人買いの醍醐味です。そんなわけで、決して彼の作品は懐かしいものではなく、どれもこれも新鮮な出会いと言えます。したがって、この超レア作品も私にとっては他の作品とさほど変わらない位置にあります。

 この作品は、オリジナルLPとしては一枚しか存在しないものです。一枚だけプレスすることに芸術的な意味があるわけではなくて、単に試しにテスト・プレスしただけなのだそうです。しかし、それがディスコグラフィーに燦然と輝くのがコンさんです。

 ほとんどが自主制作ですから、スタジオに残っていたテープのみならず、友人のところに残っていたテープも含めて、すべてがディスコグラフィーに乗ってもおかしくない。こうなると大手レコード会社からリリースするよりも最後は有利な気もします。

 ただし、音源自体は2本組みカセットの一部として発表されたことがあるので、全く幻というわけではありません。その意味ではオリジナル・ジャケットが復刻されたことが快挙ということになるのでしょうか。

 さて、残念なことに、当初のLPでは両面ともに全く同じ曲が収録されていたそうですけれども、ここでは再現されていません。その代わりに同時期に録音された曲がボーナス・トラックで収録されています。再現してほしかった。まあ2回聴けばいいのですが。

 その代りにジャケットに押してあるスタンプは本来「3 3 83」となるべきところが、「3 3 38」となっているオリジナルを忠実に再現しています。そんなところで埋め合わせをしてくれるキャプテン・トリップさんに拍手を送りたいです。

 サウンドは、さまざまな電子音からなるいつものコンさんです。長くても4分に満たない曲ばかりが16曲収められています。時折、普通にメロディーらしきものが現れるのが面白いです。アブストラクトなセンスばかりではない面が垣間見えます。

 以前よりも音の表情が増しています。音の種類が増えました。曲としての構造が明確に現れてきているようでもあり、2回続けて聴くと、それぞれの曲がアイデンティティーをもって聞こえてくるように思います。面白い作品です。

3.3.83 / Conrad Schnitzler (1983 Private)

もはや記事とは関係ありませんが、面白いのでどうぞ。