「ジギー・スターダスト」はいわゆるロック・オペラ的な作品です。この頃のロック・オペラの代表作であるザ・フーの「トミー」との決定的な違いは、オペラの主人公を場外でもボウイが演じたことでしょう。物語の主人公と同化しています。

 自分の人生を歌いあげるアーティストも多い中で、虚構を二重にしたところにボウイの慧眼があります。そのこと自体が自らの苦悩の表現なのかもしれません。当時としては大胆な同性愛者であることのカミングアウト後の作品であることも深読みの余地を残します。

 この作品はボウイの名を一躍世界に轟かせただけではなく、ロック史に残る名盤として確固たる地位を築いています。デヴィッド・ボウイのそれまでの集大成的な意味合いもあり、ボウイ史において一つの頂点をきわめています。

 このアルバム発表の半年前に突然ボウイは、宇宙から来たロック・スター、ジギー・スターダストとしてステージに立ちました。バンドの名はスパイダース・フロム・マース、こちらも火星出身の宇宙人です。

 とはいえ、バンド・メンバーが変わったわけではなく、ギターのミック・ロンソン、ベースのトレヴァー・ボールダー、ドラムのミック・ウッドマンジーと、前作にも参加している三人が演奏を引き受けています。プロデュースもボウイとケン・スコットです。

 サウンドもがらりと変化したというわけではなく、前作の延長線上にあります。CDを聴いているだけでは、キンキラキンにお化粧をした姿を想像させるものはなく、比較的シンプルなサウンドがしみじみと美しいです。フォーク・ロック的と評する人もいます。

 しかし、ボウイの声がより宇宙的になりました。もともと、この人は何を歌っても宇宙的な人です。おそらく声紋をとると山がいくつもありそうな不思議で魅力的な声です。すべてのボウイ・ファンはこの声に魅せられていると言ってもよいと思います。

 アルバム自体は、英国で5位、米国で75位とチャート・アクションはさほど爆発的ではありません。シングル・カットされたタイトル曲も同じような売れ方でした。しかし、記憶に残るアルバムとしてはボウイの歴史の中でも一、二を争う人気です。

 収録曲の中では、印象的なリフの「ジギー・スターダスト」がもちろん人気があります。さらに「君の意志のままに」や「サフラゲット・シティ」のロック曲、「スターマン」や「レイディ・スターダスト」の宇宙曲、そしてタイトルが素晴らしい「ロックン・ロールの自殺者」と名曲が並びます。

 私としては、少し毛色が変わった曲「月世界の白昼夢」を推したいところです。この曲は演奏が洒落ています。比較的武骨なロックが演奏される中で、演劇的な色合いの濃いドラマチックな曲で、二回ある間奏が素晴らしいです。印象が全体を突き抜けています。

 比較的おとなしいジャケットや、ゴージャスというよりもシンプルで「フォーク・ロック的な」サウンドからは、グラム・ロックの代表作という言葉が少し場違いにも思います。それよりも、二重の虚構が返って赤裸々なボウイをさらけ出しているところが感動の源だと思いました。

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars / David Bowie (1972 RCA)