小柳カヲルさんによれば、「複数の音源を同時に再生された時に生じる新たな音や場こそがコンラッド・シュニッツラーが考える『コンサート』に他ならない」ということです。さらに、彼にとっての「作品とは媒体に刻まれた音そのもの」です。

 ということは、コンさんのCDを持っていれば、誰でもコンサートが出来ることになりますし、実際にコンラッド不在で公演が今でも行われているのだそうです。コンさんはそのためのCD-Rまで販売していたそうですから、すがすがしいほどの徹底ぶりです。

 「コンテキスト」がシンプルな電子音ばかりで構成されていたことを思い出しましょう。そして、この「コンヴェックス」は「異なった演奏を録音したカセットを複数同時に再生し、環境やMIXで」作られたトラックが収録されています。

 音源自体は違いますが、「コンテキスト」的な素材を組み合わせた完成形がこの「コンヴェックス」ということです。このやり方ですと、「コンテキスト」からだけでも、理論的には無数の作品を作ることが出来てしまいます。

 その無数の組み合わせの中から、コンさんが選び抜いたこの一曲が8曲詰まっていると考えてよさそうです。難関を勝ち抜いたえりすぐりの曲たちがここに集う。まるでホリプロ・スカウトキャラバン決勝戦のようなものです。

 しかし、そういう音楽だとするならば、ただぼーっと聴いていてよいのでしょうか。冒頭でご紹介したコンさんのコンサート観を思い出しましょう。完全コントロールというよりも、多分にハプニング的要素が伺えます。予期せぬ結果を期待している部分もあるということです。

 そうであれば、こちらもただ聴いているのではなくて、音を出した方がよいのではないかと思います。楽器だとちょっと違う気がしますので、ビスケットを噛んでみたり、動き回ってみたり、窓を開けてみたりといろいろと工夫するとよいと思います。

 本作品はもともと自主製作で500枚プレスされています。そしてCD化はコンラッドの音にほれ込んだフランス人が立ち上げたアート・ギャラリーというレーベルが行っています。その際には、凝ったアートワークのジャケットに包まれ、各楽曲にはタイトルがつけられました。

 「蟻の血」、「ノスフェラトゥの水圧式ガラス動物園」、「スローモーションの爆竹」とかつけたい放題です。こんなことをしたのは、曲を聴いていて、私と同じように何かした方が良いと思ったからではないかと思います。

 まさか音を足して人に売るわけにもいきませんから、ジャケットと曲名で何とか気を落ち着けたのではないでしょうか。根拠は全くありませんけれども。ともかく、音そのものは基本的にはシンプルなだけにいろいろと考えさせられます。

 ボートラは今回はまるで本編と違和感がありません。こちらは同じアプローチで制作されているからです。そう考えると、意外にこの手法はびっくりするような結果は生まないのかもしれません。それにしても相変わらず綺麗な録音です。さすがに音に対する姿勢は凄い。

参照:「クラウト・ロック大全」小柳カヲル

Convex / Conrad Schnitzler (1982 Private)

この音源ではありませんが、カセット・コンサートです。