「スペイス・オディティ」は恐ろしい曲です。宇宙空間に独りぼっち。こんなに恐ろしいことはありません。「ゼロ・グラヴィティ」、「アルマゲドン」、最近では「火星の人」など、繰り返し繰り返しこのモチーフが使われていくことになります。

 デヴィッド・ボウイはスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」に触発されてこの曲を作ったそうですが、時はアポロ11号の月面着陸を控えた時期で、宇宙がいきなり身近になってきた時期でした。

 イギリスではBBC放送がこの曲をテーマ曲代わりに頻繁にオンエアしたそうです。よくもまあ事故が起こる情景を描いた歌なのに宇宙特番で使ったものです。確かに、宇宙のイメージは鮮烈なので、後半部分まで行きつかなければ最高の曲かもしれません。

 デヴィッド・ボウイの2作目ですが、前作はデビュー前史扱いされることが多いので、実質的なデビュー盤と言えます。もっとも、後の「ジギー・スターダスト」での大成功が彼の出発点だと思っている私などからすれば、この作品もデビュー前史ですけれども。

 デヴィッド・ボウイは1964年にデビューしています。最初のアルバムは1967年に発表されていますが、それまでに発表されたシングル9枚ともども成功には至りませんでした。しかし、マネージャーのケネス・ピットは頑張りました。

 当時は珍しかったショート・フィルムを制作して世の中の耳目を惹きつけ、無事にフィリップスと契約に漕ぎつけます。フィルムに入っていた新曲が「スペイス・オディティ」でこれが特に注目を集めたわけです。

 この曲を、エルトン・ジョンで有名なガス・ダッジョンとポール・バックマスターのコンビとともに再録音すると、英国で5位まで上がる大ヒットになりました。ボウイ伝説の幕開けです。ついでに印象的なメロトロンはリック・ウェイクマンです。彼を含めてエルトン・ジョン・トリオです。

 アルバム自体はTレックスを手掛けていたトニー・ヴィスコンティがプロデュースしています。「スペイス・オディティ」はガス・ダッジョン制作のままで、明らかにアルバムから浮き上がっています。歌詞の世界は地続きですけれども、サウンドはかなり異なります。

 自身の名前を冠したアルバムでしたが、後にRCAが権利を買い取ると「スペイス・オディティ」と商業的には当然なタイトルになりました。本当のデビュー盤もセルフ・タイトルでしたから、名前の付け替えは正しいと思います。

 名曲中の名曲のタイトル曲以外の曲も意外と素敵です。ちょっとサイケデリックの入ったフォーク・ロックとでも言える曲ばかりです。ボウイのボーカルはまだしゅっとしていますが、とても味があります。真のデビューにして大ブレイク前のまだまだ大人しいボウイです。

 今なら「ハーマイオニーへの手紙」となるはずの「ヘルミオーネへの手紙」を始め、これはこれで、この方向での進化もあったのかなと思わせる佳曲が並んでいます。ボウイの度重なる変身の最初のフェーズは初期のエルトン・ジョン的雰囲気も併せ持つ忘れがたい作品です。

David Bowie / David Bowie (1969 Philipps)